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紅葉色のバイオリン

第3章 バイオリン

「やっぱり柊一だね。」

僕の話を聞いた純は少し笑う。
僕は今、長期休暇明けの大学の談話室の窓際で純と話していた。

「何がどう僕なんだ?」

「前、言っただろ?“人をよく見てる”って。」

僕は少し考える。

「今回のことも多分、柊一じゃなかったら気付かなかったよ?希一くんの怪我はそりゃあ、分かるかもしれない。でもさ、バイオリンを弾く場所とかケースの汚れとかって普通の人なら見逃しそうなところなのに、お前は見逃さなかった。そういうところだよ。」

「そっか…」

僕にとっては気付いて当たり前のこと。
でも、それは僕だから気付いたことだったのかもしれない。

「柊一はさ、希一くんのお兄さんである前に北条柊一っていう誰も代わりが出来ない人間ってことを忘れるなよ。」

純の言葉に僕は深く頷いたのだった。

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