ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜
第106章 すれ違い
「…そっか。悠仁が狼さんになっちゃったんだね。」
「あんな五条先生初めてでした。正直、ほんの少しだけ怖かったです…。」
話している間に注射も終わり、藤堂先生とベッドに腰掛けて話をする。
「それ以来、悠仁が怖く感じちゃう?」
「いえ、五条先生が怖いというか…五条先生に求められたことはうれしかったです。怖かったのは、あくまでそういう行為がってことで…。早く五条先生とひとつになりたいって気持ちがあったはずなのに、いざとなると心の準備が全然だったんです。だから、次そんな雰囲気になっても、わたしまた……」
「そう思うと、どこか距離を置いてしまうってことか。」
「はい…。」
両手の空いた藤堂先生の手が、今度は本当に、わたしの背中にそっと触れる。
こんなこと、普通なら人に言える話じゃない。
なのに、こうして相談できてしまうのは、藤堂先生の人柄はもちろん、わたし(患者)とここまでの関係を築き上げてくれたからなんだなと。
心のケアも主治医の仕事って、藤堂先生は当たり前のように言ったけど、こんなに寄り添うのは簡単なことじゃない。
それも含めて医者の腕なんだって思ったら、患者としては主治医が藤堂先生でよかったと、医者としてはわたしもこんな先生になりたいと、心の底からそう思う。