ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜
第67章 鉄剤注射
「栗花落さん、今日はどっちの腕でいこうか…」
と言いながら、血管を探す看護師さん。
血管を探されるのはいつものこと。
おまけにあざだらけだし、見つけるのも大変なんだろう。
けど、今はそれよりももっと気になることがあって…
「栗花落さん、今日はこの辺りからしてみてもいい?」
"栗花落さん"
そう呼ばれることに、どことなく乾きを感じる。
小児科では、病棟だろうが外来だろうがみんな下の名前で呼んでくれてたのに、内科に来てからは栗花落さん。
最初はなんとも思わなかったし、むしろ大人になった気がしてうれしさすらあった。
けど、
"栗花落さん"
そう呼ばれるたび、もう大人だよ?甘えないよ?って少し突き放されてる気がして、孤独感を感じる。
そして、ひなちゃんって呼んでくれてた人たちは、どれほどわたしに寄り添ってくれてたんだろうって…
「どこでも大丈夫です…」
天井を見つめて小さく返事すれば、
「そしたら、ここから入れるね。」
と、消毒されて針がチクっと皮膚の下へ。