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変態ですけど、何か?

第13章 玲子先生 ~留学~

ドイツに行ってから、玲子先生は毎週のように手紙をくれた。

師事することになった先生の紹介で、音楽学生ようのアパートに入居出来て、
数ヶ月間は語学学校でドイツ語を学びながら、
初級者のピアノ教師をして、生活費を賄うようになったこと。

先生からは、毎週個人レッスンを受けるようになったこと。

ある程度ドイツ語をマスターすれば、国立音楽大学の入試を受けること・・・。


高校を卒業して、コールセンターでの退屈な仕事に携わるあたしにとって、
玲子先生の手紙は、
大きな希望の光に思えた。

順風満帆にキャリアを重ねる玲子先生は、あたしの自慢だった。

無事に国立音楽大学に入学し、一年ほど経った頃。

玲子先生から、世界的なピアニストの登竜門と言われるコンクールに出場することになったと、
喜びの手紙が来た。

あたしは自分の事のように歓喜し、お守りとお祝いを送った。

けれどそれ以降、玲子先生からの手紙は途絶えた。

何度か、玲子先生の実家を訪ねて、近況を訊ねてみたが、
『今はそっとしておいて』
と言われるばかりで、詳しい話は聞かせてはもらえなかった。

ご両親にすれば、あたしは玲子先生の教え子のひとりに過ぎなかったし、
それ以上の話をする必要性もなかった。

ただ、想像できるのは、
玲子先生がコンクールでは、芳しい成績をおさめることがかなわず、何らかの挫折を味わっているということだ。

もし、入賞していれば、日本人ピアニストの快挙として、テレビやインターネットで話題に登っているはずだから。

こんな時にこそ、あたしは側にいて、玲子先生の力になれればと悶々としていたが、
何の力も持たないコールセンターのOLには、どうすることも出来なかった。

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