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不倫研究サークル

第11章 リケジョ

「え? 先輩?」

僕は、佳澄と女子学生を交互に見比べる。

「なんだ、偶然いっしょだったの? もしかして、森岡君って”持ってる”人?」

可笑しそうに佳澄は笑った。

「石井、もしかしてワタシに紹介したい男子って、カレのこと?」

「そうですよ~日向先輩。どうです、真面目そうな好青年でしょ」
「あ、森岡君、こちら、私の高校の先輩で日向美栞《ひなたみかん》さん」

「は、初めまして、僕、森岡圭といいます」

あらためて僕も美栞に挨拶をする。

「石井、アナタ、目は節穴ですか?」

美栞は、うどんをズルズルとすすりながら、佳澄を見上げた。

「え……と、先輩、どういう事かな?」

「コノ人の、どこが好青年なのですか?」

そう言うと、美栞は、今度は僕の方へ向き直り、眼鏡の奥の冷たい瞳を光らせた。

「アナタ、さっきからワタシの胸ばかり見てますね。 スケベですよね」

相変わらず、うどんをすすっている。

「いや~、そ。それは、石井さんを探して……」

「アナタの座高と視線の角度を計算してみました。 視線の先は下の方に向かっていました」

(う!? するどい!)

「その結果、ベクトルの延長線上にあるのは、ワタシの胸でした」

「まあ、まあ、先輩、男子なんて多少なりとも、そんなものですよ」
「森岡君は、真面目だし、素直だし、優しいし、お客さん、こんな優良物件はそうそうお目にかかれませんよ」

なぜか佳澄は営業トークへと変わっていた。僕は不動産か! と突っ込みたくなった。

「まあ、良いでしょう。 ワタシも、そろそろ恋愛というものを経験したかったところです。 森岡で手を打ちましょう」

美栞は、どんぶりを両手で持つと、ジュルジュルと音を立てて汁を飲んだ。

そして、トンとどんぶりをテーブルに置くと、またしても眼鏡の奥の冷たい瞳をキラリと光らせた。

「ただし、森岡にスケベ疑惑がある以上、正式に恋人になるのはリスクがあります」
「あなたは、実験的恋人という事にします」

「あ……の、それって、どういう意味ですか?」

「つまり、物事を証明するには検証が必要ですよね。 科学の世界では実験を重ねて、証明をするのです。 恋愛も、まずは実験から始めます」



(な、なんだろう? この既視感は……)

こうして、僕に新しい恋人ができた。


リケジョの実験台だけど。




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