
メランコリック・ウォール
第50章 渦
終始、キョウちゃんは目を輝かせていたように思える。
もらったエコー写真を、車に戻るまでずっと離さなかったのも彼だった。
そして私も、ほんとうに自分の中にもうひとつ命があるということを知り、心に津波を感じていた。
しかし帰り際、手渡された診察券の「椎名」という姓を目にし、またどんよりと頭上が曇った。
「アキ。あっちに戻った時、もう妊娠分かってたんだよな?」
「うん…。」
「だから突然焦ったように行ったんだな…。」
子が出来たと知り、私は今すぐにでも椎名の姓を抜けたかった。
思いはむなしく散ったけれど、いつまでもこのままでいられるはずもない。
今夜にでももう一度、オサムと義父に連絡しよう…。
森山家に到着し、早速エコー写真をお父様たちに見せてから、寝室で携帯を確認していた。
「なに…これ……。」
見ると、メールの受信数が100を越えている。
これまでの着信も相まり、いよいよ恐ろしさが湧いて来た。
なにがどういうシステムになっているのか、宛先は”不明”となっている。
内容は、「死ね」と何度も書かれたものや、「母親になる資格はない」というものもある。
意志と反して足が勝手に震える…――。
私の妊娠を知っているのは、ここにいる3人と…山岸さん夫婦。
そして、ウォールシイナの2人だけだ…。
すぐに義父へ電話をかけた。
「もしもし?アキちゃん?」
いつもと変わらない調子で義父が言った。
分かっている。
義父はこんな事をする人間ではないし、そもそもメールの使い方もままならないのだから…。
「おーい、アキちゃん?大丈夫かい?」
義父の声が遠く聞こえた。
「あっはい…あの、オサムさん…どうですか?」
「昨晩もね、あいつの部屋に行って話したんだ。そうしたら、分かったからちょっとそっとしておいてくれ!って言うんだよ。」
「はぁ…。」
