
メランコリック・ウォール
第50章 渦
「そんなこと言うのは初めてだし、、少し待てば落ち着くんじゃないかと思ってね。あいつも冷静になったんだろう、きっと」
「そうですか…。」
「だから…すまないけど、もう少しだけ待ってやってくれんか?」
電話を切り、震えが止まった足を意味もなくさすった。
エコー写真を見れた喜びと、このメールの事件。
なんだか疲れた。
この日は早い時間から眠ってしまい、起きたのは翌朝の8時頃だった。
…
「んんんふぁ…――」
あくびをして目を開けると、目の前でキョウちゃんが微笑んでいた。
ああ、あのメールが夢だったら良いのに…。
おはようのキスをしてから、おそるおそる携帯を確認してみた。
「え……――」
メールは昨日すべて削除したはずなのに、そこにはまた新たに100件以上が届いていた。
「どうした?」
まだ眠気まなこのキョウちゃんが起きてきた。
私は躊躇したが、結局メールを見せながら昨日にも起こっていた事を伝えた。
彼の目はみるみる鋭く開かれ、怒りが手先から伝わった。
「これ、まさか…オサムさんが?」
「分からない。断定は出来ないけど…他に思い当たらない…。」
ひとまずその日のうちにメールアドレスを変え、夜を迎えた。
オサムに電話しようかとも考えたけれど、義父の言うことを信じて…数日様子を見ることにした。
「大丈夫。俺がいる。」
布団に入り、彼は私を抱きしめて強く言った。
「オサムさんかどうかは分かんないけど…俺、一度ウォールシイナに行ってきたい。」
「んんぅ…。」
本当は何も考えたくない。
ここ九州で、キョウちゃんとその家族だけと一緒に、未来を紡ぎたい。
逃げたい自分との葛藤はやがて、落ちるまぶたによって幕を閉じた。
