
メランコリック・ウォール
第51章 傷
「と…とりあえず、キョウヘイさんに電話をかけてみます。」
「うむ。それがいいな。」
私は一旦寝室に戻り、キョウちゃんへ電話をかけた。
時刻はもう15時過ぎで、もし早ければ話し合いも終わっているかもしれない。
「もしもし?」
長めのコールでやっとキョウちゃんの声が聞こえ、ひとまずホッとした。
「アキ?」
「あっうん…あの…大丈夫?」
「ん。まだ話してる。アキからの電話で外に出たとこ。なんかあったか?」
「ううん…あの人、どう…?」
おそるおそる聞いた。
「それがさ、怖いくらい普通なんだよ…。アキとは別れるから、もう少し時間くれって言ってて…」
「えっ…」
「電話もメールも、そんなことした覚えがないって言ってる…。」
「そう……」
「とにかく、本当に落ち着いてる。余裕さえ感じるよ…」
私は数秒迷った。
さっきの不審な手紙は、オサムではないのか…?いや、消印を見れば都道府県は分かる!
気付いた瞬間、携帯を耳に当てたまま居間へ急いだ。
驚いて私を見る2人の手元から、封筒を抜き取った。
消印は…――――。
「キョウちゃん…」
「うん?」
不気味な手紙が届いたこと、消印もオサムの住む場所になっていることを伝えた。
「中身、見たの?」
「見てない…。」
「うーん…。ちょっと、親父に変わってくれる?」
「分かった…。」
私は携帯を差し出し、相手がキョウちゃんであることを伝えた。
「ん、もしもし?俺だ。あぁ、…うむ。――」
携帯を片手に、お父様は足を引きずりながら出ていってしまった。
「アキちゃん、心配すること無いのよ?大丈夫、キョウヘイくんも、あの人もいるんだから。」
「は、はい…」
「もちろん、私だって!アキちゃんになにかあったら、怒るわよう?ふふっ」
さりげなく笑いを誘ってくれるマサエさんに、申し訳ない気持ちが募っていく。
やがて戻ってきたお父様から携帯を受け取ると、電話の向こうでキョウちゃんが言った。
「とにかくアキは気にしなくていいからな。」
