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メランコリック・ウォール

第51章 傷


底冷えの激しい廊下で待っていると、やがてエレベーターからキョウちゃんがおりてきた。


「…っキョウちゃん…っ」


張り詰めていたものがプツンと切れたように涙が溢れ、同時に彼の腕の中へ飛び込んだ。


「ごめんな。結局わざわざ来させることになって。…ほんとごめん。」

「謝らないでっ…私の方だよぉ…謝るのはっ…――」


見上げると、キョウちゃんの右目の下にはガーゼが貼られている。


この後オサムと義父も出てくるだろう。
私たちは呼んであったタクシーにすぐに乗り込んだ。


警察署に来る途中で予約を取った、空港近くのホテルへと向かう。






「思いっきりやり合えたほうがマシだって言ったこと、覚えてるか?」

ベッドで私を腕枕し、髪を撫でながら彼がつぶやいた。


「うん…。」


ずっと前、私とキョウちゃんの関係が知られた後、オサムは現場でキョウちゃんを完全無視していた時があった。

その時のキョウちゃんの言葉だ。


「だからさ、なんかすっきりしてる。おかしいよなぁ。」


「でも、これは喧嘩じゃないよ…」


キョウちゃんは顔の他に、首元や指先にもケガをしていた。


「こんな傷ひとつ、どうってことない。昔は地元で喧嘩ばっかしててさ、慣れてんだよ。ふふ」

いつか、山岸さんが言っていた話を思い出した。




「これでアキを離してくれるって言うんなら、最初から腕の一本でもくれてやればよかった…―――。」


せつないその声はかすれ、もしかしたらキョウちゃんが泣いているのかもしれないと思わせた。



聞くと、義父は必ず離婚届を書かせるからと、私に伝えてくれと言ったそうだ。


そしてこの事件によって接近禁止命令が出た。
オサムがもしまた悪質な行為をしたら、そのときは罰則を受けることになる。


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