
メランコリック・ウォール
第51章 傷
私との電話を切ってから、森山キョウヘイはもう一度イタズラ電話やメールについて椎名オサムへ問いただした。
最初はしらばっくれていた椎名だが、「赤文字の手紙が届いた」と森山が口にすると突然笑い出した。
「あんまり俺を舐めるな、痛い目をみるぞ」というような事を言った。
最初は低姿勢だった森山もだんだんと感情的になり、やがて2人は激しい口論になった。
椎名が「出て行け」と喚きながらリモコンを投げつけた。
森山は「アキと別れてくれ」と繰り返した。
椎名は押さえつける義父を突き飛ばし、森山へ掴みかかる。
「殴られても構わない」と森山が煽った。
椎名は森山の首を絞めたが、抵抗した森山にマウントを取られる。
割れて散っていたコップの破片を椎名が持ち、振りかざした…。
力では止められないと悟った義父は、殴れと煽る森山を落ち着かせ、森山が椎名を取り押さえた。
義父が隙を見て通報したのが、17時21分の事だった。
それから警官が駆けつけ、ケガの処置の後で警察署に到着したのが18時34分。
………
「―――これが、今回の事件の内容です。」
「あのっ…ケガは、大丈夫なんでしょうか?」
「目の下を少し縫合しています…。」
「…っ――」
胸が張り裂けそうなのに、なぜだか涙も出ない。
両膝が震えていて、これが怒りなのか恐怖なのか分からずにいた。
「ご主人…椎名オサムさんね。悪質な電話やメールの事実を認めてます。」
「…はい。」
「森山さんから、接近禁止命令の希望がありましたが…、奥様ご本人の希望をいただかないと難しいんです。」
私は黙って頷いた。
…――――
しばらくして、事情聴取を受けていた3人が開放される。
「ケガをしたのは森山さんなんですが、大ごとにはしたくないと…被害届も出されないということです。」
「はい…。」
