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戦場のマリオネット

第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】



 両親に仕込まれた芝居としても、アレットが私に向ける感情は、どうしても安らぎに潤っている。彼女の目、声、仕草のどれを取っても愛おしい。私がこの国で正気を保って生きてこられたのは、彼女の存在があったからだ。イリナを邪険に言う彼女の強気も、可愛くて仕方なくなってくる。絡めた指を組み直して、私は、このまま時が止まってしまえばという空想の息差しを聴く。


「あの女は泡になれるチャンスがある。お姉様が身代わりにならなくて済むよう死んで、地上の男の言いなりにもならないチャンスが。さもなければ救済を受けたお姫様は、どうせ喉を切り裂くしかないわ。苦しみを訴えられない声なんて、持っていたって役に立たないでしょう」


 アレットの必死な言葉つきが、私をそそのかそうとする。

 初めから持ち得なかったものを不毛に望むこともなく、砂糖菓子をつまむようにしてひとときの愛慾を満たしながら、イリナという私の生きた証になり得る彼女に思いを馳せるだけだったのに。







救済を受けた姫君は喉を切り裂く ──完──
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