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仔犬のすてっぷ

第21章 奈落の裏では



・・・話は優希が襲撃、拉致された直後のところまで遡る。




 奈緒が崩れ倒れる様子に慌てる優希の背後に気配が移動した。

彼がそうしようと思うより早く体は反応し、背後に回った気配に対して肘をぶち当てる……


「ぐぅぇ…・・・・ぁく……はあっ…」

…しかし、攻撃を受けたのは優希の方だった。
彼の口から、うめき声と胃酸とヨダレがぼたぼたと零れ落ちる。

相手のパンチが腹に深々と突き刺さっていた。

そのままよろよろと反撃をしようと、構え直しをするが、両脚がカクカクと笑っていた。


「女の子なのに、これで崩れ落ちねえか…少しは武をかじってる……」
「はああぁっ!」

ドカッ!!

一気に飛ぶように間合いを詰めた蒼空の回転脚が中年男性の首筋へ叩き込まれたが、身体を軽く捻っただけで、蒼空の蹴りは弾きかえされ、蒼空はバランスを崩し空を彷徨う。


「な…?!なに…」
「悪くはないが、軽いな……」

ダン!!

中年男性の呟きと、鋭い蹴り上げが蒼空を襲い、空中へ軽く蹴り上げられた彼の体がクルクルと回る。


「回転脚は、こうだ」

ゴンッ!!!
グゴガガアァン!!!

 完全無防備な蒼空の身体は中年男性の鋭い回転脚をモロに受け、コンビニに備え付けのステンレス製の分別ゴミ箱に叩き付けられた。


「・・・・・・・・・あ…ぐ…」

「あぁ…そ、そら……」

「…嬢ちゃんも、眠りな」

中年男性が素早く優希の後ろへ回り込むと、彼の首筋に手刀が叩き込まれ、優希が糸の切れたあやつり人形のように倒れ込んだ。

 その彼を、中年男性は優しく受け止めた後、肩へ軽々と担ぎ上げた。


「・・・て、テメェ・・・」

 ゴミ箱にめり込んだ身体を何とか引き起こし、抜け出そうとするが蒼空の受けたダメージは大きく、簡単には立ち上がれない。



「・・・港区だ」

「……は?な、なに?!」

二人を抱えた中年男性の後ろに、走ってきた黒いバンが止まった


「港区の廃工場。そこで俺の依頼人が待っている。悪いようにならない様にしてはみるが、あまり遅いと取り返しがつかなくなるから、なるべく早く来いよ?」


そう言うと、中年男性は車に乗り込み、走り去った。


「……野郎ぉ…なんなんだ?アイツは………
くそ…ゆ、ゆう……き……」


蒼空はそこで気を失った。




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