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仔犬のすてっぷ

第21章 奈落の裏では



「「「え、あ…は、はい……」」」


 森川店長の、パチンコ屋の店長モードに慣れていない蒼空、潤、アキラが、その勢いに飲まれながら返事を返す。
 カリームだけは、自分の付き添い(使用人)が用意した紅茶を、何事も無かったかのように飲んで涼しい顔をしていた。


「やりやがったなあの女(アマ)……
ココ(パンドラ)を襲撃したのはあくまでブラフで、襲撃後の油断してるトコロを襲うのが本命だったとは……」

「桜明が、明美だからって油断したわ。さすがの私も直情タイプのあの子がこんな手を使うなんて考えもしなかった・・・」


「……え?桜明って……オーナーの知り合いだったんですか?」

 事情など知る由もないアキラは、爪を噛んでイラつく様子の彼女に聞いた。



「まあね。昔つるんでた友人……っていうか、仲間ってところかしらね。
もっとも、初めこの店に来た時は様子が変わり過ぎてて気付きもしなかったけど」


「……明美って奴は優希にとって、また合わせちゃいけない奴なんだよな?
優希の過去話、アイツから聞いたから…俺は奴がどんな女か知ってる」

蒼空が幸に向かってそう言うと、彼女はとても悲しそうな表情を浮かべた。


「そうよ。優ちゃんと明美自身の為に、会わせないように両方の親御さんが話し合って決めた事なんだけど……諦めて無かったのね・・・」


「すみません、オーナー。蒼空は知ってても、僕達は何にも知りません。
差支えなければ僕達にも聞かせてもらえませんか?」

 カリームは、かちゃっと小さな音を立ててティーカップを皿の上に置く。

 特別室は防音がある程度は効いてはいるものの、先程森川店長が入室して来た時のように意外とドアの近くは外の音は漏れて来やすい。
……しかし、営業が中断され、現在も下のフロアでは警察による現場検証が行われているはずなのだが、今のこの場所はティーカップが皿に当たる音が響くほど静かだった。


「そうね・・・」
「話す気かよ?!優希のプライベートに関わるんだぜ?」

蒼空は、自分の雇い主であるはずの彼女に強い視線を送り、牽制する。


「……大丈夫よ、蒼空。
全部を話す訳じゃないわ。だから、そんな眼で見ないで」


そう言うと、幸は口を開いた。


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