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仔犬のすてっぷ

第26章 仔犬達のワルツ4 森川 VS 霧夜


「優希と奈緒ちゃんを返してもらおうか?」

 蒼空は目の前の優男に改めてファイティングポーズを取り、事を構える事をアピールする。
 普通の見た目には強そうにも、ましてや犯罪者にも見えない相手なのだが、先程ぶつけるように発した異様な《眼力》は、この男が只者では無い事を語っていた。


「・・・返すも何も……私は何も“まだ”関わっていませんよ?お願いするなら上にいる姫様に直にしてみてはどうですか?」

「アンタがそれで良いってんなら、そうさせてもらうさ……」

 戦う気が無いなら相手にする必要がないと考えている蒼空は、言われるがままに霧夜の横を通り抜けようとする。
しかし、やはりそんな簡単に済むはずもない。
 漫画を読みふけってはいるものの……階段の前にはトーマスが、霧夜の代わりと言わんばかりに陣取って立ち塞がる。


「オッサン……やる気ないなら退いてくれ!」

「……そういう訳にも行かないんでな。一応仕事だしよ。
それに……どうしても二人を助けたいんならまずそこの霧夜をなんとかしないと、後から大変な事になっちまうぞ?」


 二人がそれぞれやる気がないような感じで、蒼空は少し戸惑っていると


「しっかりしろ蒼空!俺達は何しに来たんだ?!」

 森川店長の声に振り返ると、霧夜が片手に大型ナイフを逆手に持ち、音も無く距離を詰めてくるところだった。


「……おや?気付かれましたか…」
「……!このっ!………うゎ?!」
「そっちは危ねえぞ?」

 とっさに右へ跳んで避けようとした蒼空の胸ぐらをむんず!と掴んだトーマスが、逃げようとした反対側へぽいっ!と彼を放り投げる。


ーー ぼっふ〜〜んっ!

 投げ飛ばされた蒼空は段ボールの山に頭から突っ込んでしまった。


「……なんだ?これは??」

蒼空が投げ飛ばされるのと同時に、霧夜の右手首に黒い影が絡み付き、彼の動きを止める。


「……純朴な青少年を欺いて刺そうとするとは・・・なかなか歪んだ性格してるな、アンタ」


「……ほう?貴方にはお見通しでしたか?これは楽しめそうですねぇ?」


 森川の龍節棍を解いて払い除けた霧夜がナイフを眼前にかざしながら彼を見てニヤリと笑った。



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