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仔犬のすてっぷ

第26章 仔犬達のワルツ4 森川 VS 霧夜


「・・・くそっ!何しやがる!」

 ばこっ!と音を立てて段ボールの山から立ち上がった蒼空は、投げ捨てた当人に大声で怒鳴り散らした。


「分からんか?さっきは反対へ行ってたら間違い無く刺されていたぞ?」

「……テメェ!人と話すときは相手見て喋りやがれ!漫画読みながら話してんじゃねえぞっ!」

「…わりぃ。なかなか漫画読む機会がなくてな。それよか、上に助けに行くのは少し待て。嬢ちゃん二人に怪我させたくなかったらな」

 また椅子に座り、漫画を読み始めようとするトーマスにつかつかっ!と早足で近寄った蒼空は、漫画をヒョイッと引っ掴んで奪い取ると


「俺はあの二人を助けに来たんだ!お前がやる気が無いなら、今助けても何にも問題は無いだろうが!」
「……落ち着けよ。今、お前と戦わないのは被害を最小限にするためだ。
霧夜を舐めてるとあの青年は兎も角、助け出した嬢ちゃん達もお前も殺されちまうぜ?」
「……ああ?!何言って……」

ーー ガガスッ!

 トーマスが座っていた椅子の前にあった事務用デスクの天面に、二本のナイフか突き刺さって蒼空の言葉を遮った。


「…余計な事は言わないでくださいよ?楽しみが減ってしまうじゃあないですか」

 やれやれ…と肩をすくめ、外人らしいジェスチャーをしたトーマスは霧夜に“分かったから構うなよ”と、手の甲をシッシッ…と振って見せた。


「……アイツは戦ってる最中でも、目標を見ずにこれくらいの芸当をやってのける腕の立つ暗殺者だぜ?
そんなのがぴんぴんしてる状態で、のこのこ下に二人を連れてきてみろ……一瞬でコイツの餌食になっちまう」

 デスクから刺さったナイフの一本を引っこ抜くと、トーマスは机の上に置いてあったリンゴを手に取り、ナイフで皮を剥き始めた。


「…まあ、今はあの二人が戦う様子を見ておけよ。もしかしたら次はお前が霧夜と戦うかもしれないんだからな?」


「……トーマス。そのナイフには痺れ薬が塗ってあるので、そのリンゴは食べない方が身の為ですよ?」


霧夜の一言にうげっ!と舌を出したトーマスはリンゴをしみじみと見ながら呟いた。


「ご忠告、どうも。
……つーか、もっと早く言えよ……勿体ねぇ…」



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