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仔犬のすてっぷ

第31章 激突する、LOVE IT


「……まだだ!まだ、終わりませんよッ!」

霧夜は懐から再びお札を取り出し、握り締める。


「お前……基本的体力があまり無いだろ?初めあの三編みのにーちゃん弾き飛ばした時は凄かったが、さっき俺に攻撃して来た時のは幾分かスピードが落ちてたぜ?」

「そんな事は無い!さっきは変換したお金の額が少なかったからだ!」


ビュワン!とB級映画で使われるような効果音で風を切って早い移動をした霧夜が、再び懐に手を伸ばし……
今度はカードを1枚取出した。


「……言ってませんでしたかね?私の能力は、変換した金額で力の強さや持続時間が変わるんですよ。
つまりこうしてカードごと変換すれば、口座にある金額分の力を発揮する訳なんです。
・・・さっさと皆さんを殺して、姫を捕らえて元の世界へ帰らせてもらいましょうかね」

「……本気を出す…って訳か。あ、そいつは、やべえなあぁ〜〜!」

 なんか凄く間の抜けた言い方で
『それはピンチです』アピールをするトーマスに、僕は変な違和感を感じたけど……
霧夜が持っているカードが、よく知っている銀行の口座カードだと気がついてその余裕の理由に合点がいった。

……ってか、霧夜はそんな事も知らないで悪党やってるんだろうか?


「このナイフで、まずは貴方から細切れに切り刻んで差し上げましょう…」
「…あわああ、うわあそぉりゃああ〜たいへぇんだあぁ〜やっべえぞぉみいぃんなあぁ〜〜にげぇろおぉ〜〜!」

 わたわたして見せるトーマスのあまりの演技に、思わず噴き出しそうになるのを堪える僕を、蒼空は不思議そうな顔をして見た。


「……今、笑ってる場合じゃないだろ?あのオッサンがあんなにワタワタして焦ってるくらいヤバいってのに……」

あれ?その辺の思考は繋がってないのかな?
…って、あの演技をそう見ますか?蒼空センセ。


「あのね、蒼空。普通は犯人が指名手配を受けると、犯人の逃走資金に使われないように銀行は警察から連絡を受けたら犯人の銀行口座を凍結しちゃうんだよ。
つまり、今アイツが持っている名古屋中京銀行のカードは……」

 サラサラとカードが灰になって、霧夜は一瞬ニヤリと笑ったが……


「・・・・・あ、あれ?なんか……妙ですね。
力が…湧いて、来ない??」

 自分の両手をじっと見て首を傾げる霧夜に、トーマスはため息をついてから話しかけた。


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