蜜と獄 〜甘く壊して〜
第7章 【決断の時】
「コラ、サエをからかうな」と間にデュークが入ってくれて助かった。
少し拗ねるけど手は離してくれないカインに終始戸惑う。
「いつになったらサエは僕のものになるの?」と甘えた声。
愛想笑いも効果がなくなってきた気がする。
「カイン、ごめんなさい、私は今誰かと恋愛する気は1ミリもないの」
私がそう打ち明けると皆の手を止めてしまったみたい。
「どうして?」と不安そうに覗いてくるカインに優しく微笑んだ。
「忘れられない人が居る……けどその人とは一緒になれなかった……私が逃げたの、此処に居るなんて想像もつかないと思うわ」
本当、何から説明すれば良いのか上手く言葉に出来ない。
英会話がどうのこうの…じゃなくて、日本語であっても気持ちが追いついてない。
無理やり封印した想いをこじ開けるにはまだ早過ぎる。
そっと肩を擦ってくれたのは隣に並んでくれたエレン。
「まだその人が好きだから前に進めないのね……それは恥じる事じゃないわ、納得出来るまで想い続けて?今はお休み期間、夢に向かってがむしゃらになる期間よ?」
エレンのウィンクは途轍もない威力があると見た。
「でも僕も…!嘘はつけないから想うだけなら良いでしょ?ちゃんと姫を見守り続ける騎士…てところでどう?」
「アハハハ…!それ良いね!」と皆で笑い合った。
今は此処が居心地良い。
エレンの言った通り、夢を掴む。
だからそれまではこの気持ちは封印させて?
それからというもの、皆の協力もあってSNSを通して呼び掛けたら人数制限を設けるほど子供たちが集まった。
念願の書道教室を開くことに。
“サエ・キヌガワ”
私の新しい名前だ。
父に拾われる前の名前に戻っただけだけど。
ようやく手続きも終了してこの名前になった。
絵画教室も順調で、何とメディアにも取り上げてもらえたり地元情報誌に取材されたりと一気に忙しくなった。
「サエ、楽しい?忙しいから大変じゃない?」
「大丈夫よ、カイン、すっごく楽しい!」
笑顔でそう返すと親指立てていいねポーズ。
「でしょでしょ?なんてったって僕の会社がスポンサーだからね!」