蜜と獄 〜甘く壊して〜
第7章 【決断の時】
この地に来て初めてこんなに泣いた。
咽び泣く私にエレンたちも見守りながら様子を見てくれているのだろう。
怪しい人ではないと教えなければ。
「堤さん……私っ……私っ……」
「ハハハ、めっちゃ墨着いてんぞ?」
「うぅ……グスッ……私、日本には帰らない」
「うん、わかってる、よし、俺が此処に住もう」
「えぇっ!?何言ってるんですか、仕事だって忙しいでしょう?よく休み取れましたね…」
「あ、そうそう、あっさり居なくなったお前に朗報だ、俺、あの仕事辞めたから、今は無職だけどな、とりあえずお前を捜し続けたんだ、どうしても一発言ってやりたい事があったから」
「えっ!?辞めた!?そ、そうなんですね……へぇ……え?言ってやりたい事!?怖い……何ですか?」
「あのな、俺だってまさかこんな知らない国にお前追い掛けて来て言うハメになるとは思わなかったんだからな?」
前置きが既に怖過ぎる。
3年ぶりに会った私のかつて心底愛した男はその場で片膝を地面に着き、目の前にダイヤの指輪を差し出して来たのだ。
周りに居た通行人も気付いてめちゃくちゃ見られてるし、指笛なんかも鳴らしてくる。
エレンに関してはこの辺から動画を録り出したみたい。
顔を真っ赤にして、本当はこんなこっ恥ずかしい事する人なんかじゃなかったのに。
「俺の人生にお前の居ない未来はない……紗衣、俺と結婚してください!隣で笑っててくれよ、今日久しぶりに笑顔見て心底ホッとしたんだ……もう紗衣以外考えられないんだよ、頼む、俺だけの紗衣になって?」
愛おしい寝顔を最後に私はあなたの元を去ったというのに。
何でまだこんなに愛を紡いでくれるの…?
怒られると思った。
お前なんか嫌いだって面と向かって言われるのかと。
封印した傷をえぐられると身構えたのに。
「アラ〜!サエ、これは公開プロポーズ?そんなの予定してたのね、教えてくれれば良かったのに〜」とエレンが近くに来て撮りながらニヤニヤしている。
それにハッとして涙を拭った。
「あんな別れ方しか出来なくてごめんなさい……それでも許してくれて一緒に居てくれるのなら、私が堤一崇さんを幸せにしたいです」