蜜と獄 〜甘く壊して〜
第1章 【業界未経験の需要】
「堤さんだから…!堤さんの隣に…自信持って歩けるにはまだ程遠いって言ってるんです…!」
「だから俺の傍離れるなって言ってるんだろ!素直になれ!俺以外お前を育てられる訳がねぇ!最初からお前は俺のだよ!俺以外許さねぇ!」
目がテン……とはこの事だろうか。
こんな怒鳴る堤さんを見た事がないし、言ってる事が子供っぽい。
「笑うなら笑え!」ってまだ言ってる。
えっと……怒られたのよね?
「ご、ごめんなさい……フフ」
ダメ、口元が綻んじゃう。
笑ったらダメなのに。
膨れっ面で子供っぽい堤さんがツボにハマる。
笑うのを我慢してると優しい手が頭を撫でてきた。
「なぁ、惚れてるって言ってんだ、頼むから俺の傍離れんな」
「フフフ、はい」
「その仮面いつか剥がしてもっと稼がせてやるって思ってたけど却下だ」
「え……?」
目の前まで来て後頭部から引き寄せキスされた。
またしても気が付けば腕の中。
かく言う私も、堤さんの温かい体温に心地良さを感じてしまっている。
「仮面の下は俺だけが知ってれば良い、紗衣って呼べるのは俺だけだろ?」
「ダメ、この家でだけ…!周りが誤解します」
「じゃ、これからもこの家来て良いんだな?ヨシ」
「あっ…………」
「撤回出来ねぇからな」
ズルい………いとも簡単に唇を奪う。
抗えなくする。
だったら、紗衣な今の私を全うしてみよう…とキスを中断させる。
すでに反応して固くなってるのは見えてない事にして。
「紗衣の時は普通に書道家ですよ?私」
「わかってる、神楽坂先生を口説きに来てんだ」
「何が楽しいんだか……クソ真面目な女、すぐ飽きちゃうと思いますけどね」
「飽きねぇよ、ゾクゾクする……先生の姿から…本当の紗衣になって、リリカになるまで全部知ってんだもん」
返す言葉がない。
「耳まで真っ赤だぞ」
「いや……その……何でもないです」
「まだまだ仮面剥がしてやるよ、楽しみだ」
「………悪趣味」
「何とでも言え」
マネージャーとキャストらしからぬ会話……でも甘い空気。
不慣れな私はフッと笑い、箍を外す堤さんを受け入れてしまうのです。