蜜と獄 〜甘く壊して〜
第2章 【快楽主義の射精術】
履歴書見て「どうにか顔出しで働けねぇか交渉しろ」と割と最初の段階で圧力かけられてたことも最近知った。
断り続けているのが申し訳なく思えてくるがそこは曲げられない。
「大丈夫、その辺は俺が上手く言ってるから気にせずリリカになりきれ」って堤さんは言ってくれるけど。
どんな交わし方してるのかはわからない。
そこは甘えて良いのかな…?
「リリカさんお願いします」
そう指名が増えるたびに私はどんどん開花していった。
仮面を着けた瞬間、リリカになりきる。
「その部屋に向かう時のリリカさんの目、ドキドキします」
最後の仕上げヘアメイクに取り掛かる時にトモチンが言う。
「全部、捨てる瞬間だよ?」
「え…?」
「背負ってたモノ全部……終わったらまた背負いに戻るけどね」
お客様と関わる瞬間だけは真っ白なリリカで居たいから。
まるで恋人に会いに行くように心を馳せて熱く奉仕する。
それが自分の決めたルーティーンなの。
ボーイさんに連れられて部屋へ向かう途中、普段は居ない廊下に堤さんの姿が。
仮面を着けたまま顔を合わすのは久しぶりだ。
こちらです、と場所を伝えた後気を利かせて立ち去ってくれる。
「どうしたんですか?」
「太客だろ?次」
何もかも把握してるだろうに何故わざわざ言いに来るのか。
接客の仕方で言いたいことでもあるのだろうか。
「何としてでも延長させろ」
いつも突然の命令だ。
試されてる……なんて今に始まったことではない。
ニッコリ微笑んで「承知しました」と言う私に冷たい視線を向ける。
仕事モードの時の堤さんだ。
マネージャー堤の時は仕事の鬼と化す。
皆からは恐れられているし、こういう業界はその威厳がとても大事なんだと痛感している。
新人にはクソほど甘く、指名がついてくれば手放していく。
ベテランになったから、後輩がついたからといっても接客の仕方に問題があればその都度キツく言い渡す事も。
“たまには鼻へし折ってやらねぇとハングリー精神がなくなるんだよ、そうなったらお嬢とは言えねぇ”って言ってた。