テキストサイズ

冬のニオイ

第5章 リフレイン

【智side】

「やめてくださいよ、堅いなぁっ。
こちらこそお世話になっております」

一気に言ってから上半身を倒して腿に手をついた。
息を切らしてハァハァ言ってる。

「ハァッ、ハッ、ちょっと待ってっ、息が切れてっ。
コートッ、着てくれっ、ハァッ」

顔を上げてオイラを見ると嬉しそうに笑った。
相変わらずのイケメンだ。

「ふふっ、ちょっと落ち着きなよ。
お蔭様でこのコートとってもあったかいよ」

「良かったですっ、ハァッ」

「松本君、運動不足だな」

「そんなことないですよ!
今はちょっと、正月休みで鈍っちゃってっ。
ここ傾斜が結構キツイっすね!」

「そうだねぇ。
上から見下ろしたい人にはいいね」



お茶を出してくれる、と言うので、二人並んで事務所まで歩き出す。
今度は傾斜が下りになるから、前のめりに早足になった。

「ダッフルにして正解でした。
とっても可愛い」

舗装されたばかりの新しい道路を見つめながら歩いていると、松本君の声が少し上の方から聞こえた。

かわいい、って……。

「オジさんをからかって何が面白いんだよ。
前にも言ったけど、もうこんな高価なプレゼントは受け取れないよ?」

斜め上を見上げて言い聞かせるように口にしたら、途端に不安そうな顔をする。
顔の作りが派手だから、ちょっと表情を動かすだけでハッキリ感情が現れた。

「あの、大野さん、この間のこと考えてもらえましたか?」

「付き合う、って話?」

「はい」

「うん……。
松本君さ、やっぱり」

「待って!
俺、本気だって言いましたよね?
本気ですっ!
大野さん、考えてくれる、って言いました」

やんわり断ろうとして視線を外したまま言いかけると、途中でさえぎられた。
足が止まってる。

きっとオイラのことを、いつもの真剣な、熱い目で見つめてるんだろう。

オイラは松本君の視線を避けて下を向いた。
首の辺りを手で撫でると指先が思ったより冷えてて、マフラーも忘れてたことに気づいた。

「……ちゃんと考えてるよ」

「ホントに?」

「うん」

不安そうにしてるのが申し訳ない。
一途な彼の一途な気持ちは、オイラに昔好きだった男を思い出させる。
他の男を心に隠したまま、この真面目な人と付き合うなんて。

断らなければ、と思うのに。

一人が寂しいのもまた、事実だった。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ