
小さな花
第3章 Saliva
膝をケガした日から1ヶ月が経った。
かなり傷も癒えたし、あの恥ずかしさも薄れてきている。
「今のままで可愛いと思うけどなぁ」
タケちゃんは私と同い年で、ゲイで、BLUEのスタッフ。
今日は土曜日で、私は予定より1時間も早く店にやって来た。
「だめ…!もっと大人っぽく…、ううん、せめて年相応に見えるようなメイクがいいの」
過去にヘアメイクのバイトをしていたと言うので、私はすがるようにタケちゃんにお願いしたのだ。
「若く見せたいって人はしょっちゅういるけど、その逆って聞かないよ。ぜいたくな人~」
あきれるように言いながらタケちゃんは私のメイクポーチをあさる。
几帳面に刈り揃えられたアゴヒゲに、金髪の坊主頭、鼻ピアス。
出会ったその日に「僕はゲイだから惚れないでね」と言い、私の笑いを誘った人。
「化粧品が少ない。さすが若作りに苦労したことないだけある…」
「そうかな?」
これでも一通りは揃えてあるつもりだったのに…綺麗な人はきっと、たくさんのコスメを持っているんだろう。
「あのねせいら。老けて見せたいなら、ポイントは1つだけ。」
「うん…?!」
それからタケちゃんは、私の顔面に化粧をしながら教えてくれた。
”濃い目のメイクを、完璧にする事”
童顔の場合、どこかサボるとそれが逆に幼く見えるらしい。
「ベースメイクから抜け目なく!仕上げのチークまで、サボりは無しだよ」
…ぎくりとした。
いつもファンデから早速サボっていたし、少しのアイシャドウとマスカラくらいしかしてなかったから…。
「こんな感じかな」
仕上がった顔を見てみると、これまで一度もしたことのないメイクに驚いた。
自分なのに、まるで違う人みたい。
太めに引かれたアイラインは目尻でキュッと上がっていて、眉もいつもより濃い。
「す…すごい」
「ワインレッド系のリップがあればもっと老けるよ。あはは」
その日はそのメイクで仕事をした。
「せいらちゃん、今日は雰囲気ちがうね?似合う似合う」
常連さんに褒められ、ウキウキしていた。
シンくんはどんな反応するかな。
少しは大人な雰囲気を感じてくれるだろうか。
