
小さな花
第9章 Rains and hardens
逃げるように商店街とは逆方向へ向かいながら、シンくんに電話をかける。
「あいよー。もうちっとで終わる。わるい」
「シンくん!!」
「どうしたんだよ?」
「今…ゆ、由梨さんに会った」
「………マジかい。はぁ…とりあえず駅前で待ってて。すぐ行っから。」
「…分かった」
シンくんは、きっと…すぐには来ない。
もう間もなく由梨さんはアスクに着いて、シンくんにすり寄るだろう。また長くなるに違いない。
…
それから、私の予想を裏切ってシンくんはすぐにやってきた。
由梨さんはいいのかと聞いても、「大丈夫」としか答えない。
なにも聞いていなかったらしく、あいつはいつも突然来る…と言って苛立ちを見せた。
新しく出来たお店でいつものようにお酒を飲み、シンくんのマンションへ帰ってきた。
シャワーを浴び終わった彼が、ベッドに寝そべっていた私の顎を持ち上げる。
「今日はしたくない」
唇が重なる直前、私はそう言い放った。
「…あ、そう。じゃあキスだけ」
優しく口づけてから私の前髪をそっと整え、電気を消して腕枕をされる。
由梨さんのことでモヤモヤが残り、冷静でいられない自分がいた。
「ねえ、なんで付き合ってもいないのにえっちするの」
思考より先に口に出ていた。
「は?」
「旅行だってさぁ。変だよね私たち」
一瞬の間があり、シンくんは低い声で答えた。
「お前はなんで応えたわけ?」
「…っ――」
「お前あの男と会ってた頃、”付き合ってない。たまに遊ぶだけ”とか言ってたじゃん。今だって同じじゃねえの?」
「それは…ちがっ…」
