
小さな花
第9章 Rains and hardens
「いやいや、いいッスよ。いらないッス。」
初めて聞くカズヤくんの敬語に違和感をおぼえつつ、それよりカズヤくんのふてくされたような態度が気になった。
「んなわけにいかないッスよ。」
わざとおちゃらけたフリをするシンくんはさらに続けた。
「キミね、こいつと結婚でもする気なの?」
「はい?」
「そうじゃないよねぇ?ねえ?…なら、もう構わんでやってくれないかな。そもそもキミ、加奈子ちゃんと付き合ってるんじゃないの?」
「…なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないんすか?関係ないっすよね?」
カズヤくんは苛立ちを隠さなかった。
「俺、の、気分が、悪いから。」
シンくんは言葉を区切りながらハッキリ言い、1万円札をカズヤくんの胸ポケットにぎゅうっとねじ込んだ。
…
「お前さぁ…」
「あー、あー、分かってます。ごめんなさい…」
シンくんが怒り出す前に私は謝った。
「べつに謝ってほしいとかじゃなくて。風邪なら先に俺に言え。そんで、はっきり断ることを覚えろ」
「はい…。」
この夏の終わりにあんな事が起こるなんてこの時は知る由もなく、その夜私は風邪薬を飲み、シンくんに包まれて眠りに就いた。
…―――――
恋人として過ごす初めての夏、シンくんは忙しい仕事の合間をぬって沢山の思い出をくれた。
海にもプールにも行き、かき氷も食べた。
海水浴場が目の前にある旅館に泊まり、夜は狂おしいほど愛された。
これまで、こんなに夏を満喫したことがあっただろうか?
少なくとも、恋人と呼べる相手と過ごしたのは初めてに近い。
そんな楽しい夏も終わりに近づいた9月後半。
かどやでの仕事を終えると携帯に倉田くんからの着信が2件とメッセージが2件入っていた。
