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小さな花

第9章 Rains and hardens


…――カズヤくんだった。


「せいらちゃん、一人で唸ってたでしょ?あはは。どしたの?」


「あっええと…」


恥ずかしい。


私が風邪気味だと伝えたら、カズヤくんは風邪薬を手に取った。


「ちょっと待ってて♪」



あっという間に会計を済ませて戻ってきたカズヤくんはビニール袋を手渡してきた。


「え、悪いよこんなの…お金、払うから」


「いいからいいから!」


カズヤくんを追いかける形で店を出る。


あたりはもうすっかり日が沈んでいる。


カズヤくんはこれから仕事なんだろう。



互いに傘をさし、商店街の小道を早足で歩いた。


「ほんとに大丈夫だから!お願い、払わせて」


「気持ちだからいいって。ゆっくり休んでよ♪」


「でも…っ」


相変わらずカズヤくんを追いかけながら言った。


突然彼が立ち止まり、私の傘の中にぐいっと入ってくる。




「お金、いいからさ。」

「…っ」


「そのかわり、また会えないかな?デートしようよ」


無言でいる私にさらに顔を近づけ、「チュゥしていい?」と小さな声で聞こえた。




「だめっ…!!」


カズヤくんの肩を押すが、自分自身がよろついた。



次の瞬間、傘もささずに煙草をふかして歩いてくるシンくんと目が合った。



「なにしてんの~?」



いたって普通の口調だが、私には怒っているとすぐに分かった。



「あ、あの…たまたま会って、風邪薬を…」


カズヤくんは小さく舌打ちし、自分の傘に戻っていった。


「風邪薬?」


「うん、買ってもらっちゃって…それでお金をね、渡したくて」


「…ふ~ん?」


すぐにシンくんは自分の財布から1万円札を抜き取り、カズヤくんの方へ差し向けた。

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