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トライアングルパートナー

第19章 純子の再生

 危機管理対策室長席で、純子は座りながら植木との昨晩の会席を相変わらず考えていた。起床後、夜の経過報告をしてくれていた調整役の人格・順子の説明がいまいち要領よく伝わってこなかった。順子の説明を聞いてももやもやしながら出勤し、たった今、自席に着いた。室長室の前に危機対策計画係があり、純子はその計画係の脇を通って部屋に入る。純子の心臓が大きく動悸していた。植木の動向だけに注視しながら通った。彼はいつもどおり立ち上がって深々と朝のあいさつをしてくれた。
「あっ、まずいわぁー 昨日のことでいっぱいで、植木さんにあいさつをしなかったぁー 気を悪くされたかなぁー どうしよう?」
 純子は机に両肘を載せて頭を抱えた。彼女は抱えていた両手で髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「いや、いや、そんな、あいさつどころではない。まずは昨日の夜だわ。あの潤子が夕食だけで済むわけがないわよ。夜の時間帯なのだから、きっといつも進一にしていることを植木さんにもしたに違いないわ。あたしのこと、嫌われたりしていないかしら、心配だわ」
 42歳の純子はこの頃、男女はこういうことをするのが愛の行為だ、ということはなんとなく、想像ができてきていた。だが、具体的にはモザイクが掛かりよく分からないから、モザイクの部分を知りたい、と思うこともある。自分だって知りたい、知って一人前の女性として生活したい。あの植木さんとどんな時間を昨夜は過ごしたのだろう。そんなことを考えただけで顔を真っ赤にした。
「いやいや、そんな…… あんなことを経験したからって一人前と言えるの?」
 思わず大きな声を出して独り言を発してしまった純子だ。その純子の思わず発した声に植木の耳が反応した。植木が立ち上がるガタンという大きな音が純子に聞こえた。
「あ、植木さんが来るわ、きっと来るわ。どんな顔をしよう……」
 今度は声に出さないで、純子は席を立ち上がって、直立したまま、ドアの方を向いて植木を待った。

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