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トライアングルパートナー

第21章 初恋

「進一が好きなのは…… あたし、この潤子様よ…… へえー、あなたは植木さんみたいな人がタイプだったの? だから、しっかり自分の身近なポジションに彼を置いた訳ね、お友だちの人事部長を操作して……」
「いい加減なことを言わないでほしいわ、初めて彼の存在を対策室で知ったのよ」
「あら、へんねぇー 幹部職のあなたが役所の企画部署の人とは、会議とか、合議文書でつながっていたんでしょ? まして、彼は区の基本構想を10年以上も携わってきた羅針盤みたいな人よ、接点がなかったなんて考えられないわ」
 夜の潤子に言われてみれば、昼の純子の記憶に植木の作成した起案文書が思い出された。話したことはないが、会議で同席した記憶も思い出された。
「これを作った植木さんってどんな人なのかしら。あの人ね? あなたは、そんな思いを描くようになっていた。夫を持っているのに、彼を好きになりそうで、彼の存在を脳内から避けていたはずよ。それまでにして避けてきたのに、どうして、自分の側近にしてしまったのか。あなたは、半年間、悔やみながら、不可解に思っていた……」
 純子は、夜の潤子と会話していて、急に心当たりが湧き上がった。夜の潤子がさらに追い打ちを掛けてくる。
「あなたって、世間では女神様、仏様、弁天様とか言われているけど、見かけによらず、悪女ね? あなたも動物の女なのよ」
 夜の潤子の言葉に、昼の純子は意識を失いそうなほどショックを受けた。
「社会に貢献する。それだけを目標に生きてきた。それが幸せ、あたしの幸せ……」
 純子はその場に立っていられずに、壁に背中を付けて両手のひらを壁に貼り付け、床に崩れそうになる体を固定した。そうしないと、夜の人格・潤子の指摘が、図星、的確すぎて、理性を失い発狂してしまいそうだった。自分はなんて軽率な行動を取ってしまったのか。罪悪感でいっぱいになった。今まで、恋愛に興味を持たなかった。社会貢献、社会奉仕活動という人類愛に全力を傾けてきた。今後もしんしに向かっていくだろう。でも、そう思っていても、それが、最近、おかしい。植木が頭の中に突然出現するようになっていた。思いを押し殺せなくなってきた。

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