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トライアングルパートナー

第3章 リア・ラブゲーム店

 進一は、中年のおばさんが「キャーーー」という声を上げて逃げたのを最後に声を掛けることを諦めた。
 彼はきょうも訳の分からないことが職場で起きたことを思い出した。実は、人様に知られたくないほどの変態的な妄想を部下の小山内慶子にしてしまった。最近の進一は思考がおかしくなったのではないか、と思うことがしばしば起きている。生来、真面目な男の代表みたいな進一は、最近、妻の純子に感化され始めている。昼間の純子は誰が見ても優秀でできる女の代表みたいな人で、周囲から神様、弁天様、仏様とうわさされている。ところが、夜の純子の性格は丸で180度と言えるほど真逆だ。娼婦と言っても過言ではない。進一は夜になると、別人の純子に「なんてことをするんだ」と泣き叫ぶほど、否、歓喜しているのかもしれないが、今まで、何度となく翻弄(ほんろう)されてきた。
 そのせいか、女性を見る目がおかしくなってきた。こんな美人が夜になると変身する。だから、容姿を見て、かわいくても、本当は違うのでは、と考えてしまうのだ。そして、部下の慶子の働いている姿を、二度見、三度見をしてしまう。彼女のスタイルは、エッチな体つき、しぐさ、振る舞い方、とでも言ったほうが早いか。とにかく、訳もなく、時と場所を選ばず、そそられる。店員が言うように、僕は愛に飢えているんであろうか、と思い当たる。いやいや、慶子だけだから、と彼は首を左右に振って否定する。
 しかし、慶子に対する見立ては、あくまで進一の妄想でしかない。慶子本人にきいたことなどない。そんなことを聞けるはずもない。「きみはエッチな体を抑えられないのかい?」などと、きいてみなさい、たちまちのうち、セクハラ係長と人事部に訴えられてしまうだろう。だから、きょうの仕事中、慶子を見て妄想の世界を楽しんでいた。ちゃんと仕事をしながら、隠れて妄想しているのだから、他人に知られるわけがない。まして、役所から物理的に離れているこの店の店員に伝わる訳がない。現実の世界で、何も悪いことはしていない。エッチな妄想することが犯罪だとしたら、官能系のクリエーターたちは悪の権化になってしまう。グラビアアイドルの写真を見てオナニーをすることも犯罪になり、グラビアアイドルから暴行罪で訴えられる日がやって来てしまうではないか。

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