トライアングルパートナー
第13章 小山内慶子の攻略
今田進一は役所の自分のオフィスへ通じる廊下を歩いている。後ろからカツカツと足音が近づいてくる。朝の早い時間なのでこの時間帯にこのフロアーを歩いている人間は限られる。大抵、進一より先に出勤している小山内慶子に思い当たる。彼は立ち止まり、後ろを振り返ると慶子だ。彼女はいつものようにニコニコしながら足早に歩いてきた。
「きょうは珍しく遅いんだね」
進一が慶子に声を掛けると、慶子は進一の前で立ち止まった。
「係長、おはようございます」
いつもあいさつなどしない慶子が頭をゆっくり下げて進一にあいさつをした。どういう心境の変化か、彼は少しばかり驚いた。
「あぁ、おはよう、小山内さん、昨日はお弁当をありがとう。とてもおいしかった。料理が上手なんだね?」
進一は「部下をほめて育ててくださいね」と人事部長から会うたびに指示を出されていたから今も条件反射のごとくほめなければと思って、慶子の料理をほめた。でも、ほめなければと今までは思ったが、本当に美味しかったから、また、食べたくて口から出た言葉だ。昨日は、世間体もあるので、部下と一緒に会議室で二人だけの食事なんてできないよ、と言った。彼は、あんなに美味しい料理なら、世間体を気にしないでいいなら、彼女の作る料理を毎日でも食べたい、と心から思った。その瞬間、彼は大きく首を振った。いけない、妻帯者のおまえが何を考えている。身の程を知れ。分別をわきまえろ。もう一人の進一が脳内で絶叫していた。
昨日、昼休み、慶子と二人で手作り弁当を食べながら、ラブゲームの説明を少しだけ聞いた。二人で作るゲームという漠然とした説明だった。進一は、慶子がまだ若いのに料理が上手で驚いた。きっと花嫁修業をしてきたんだ、と思った。なにしろ、小山内グループの継承者だから。人事部長から口うるさく言われていた。寄付金をいただいているからな、という念押しだった。進一は、今頃、こんな娘がうちにいたらこんな感じの話をしたのだろう、と思った。ヒトメボレで相思相愛の関係になった、と慶子は言う。もともと、進一はヒトメボレを使わずとも、慶子が愛らしく、好きなタイプだった。本当に娘でもいい、と思ったほどだ。
「きょうは珍しく遅いんだね」
進一が慶子に声を掛けると、慶子は進一の前で立ち止まった。
「係長、おはようございます」
いつもあいさつなどしない慶子が頭をゆっくり下げて進一にあいさつをした。どういう心境の変化か、彼は少しばかり驚いた。
「あぁ、おはよう、小山内さん、昨日はお弁当をありがとう。とてもおいしかった。料理が上手なんだね?」
進一は「部下をほめて育ててくださいね」と人事部長から会うたびに指示を出されていたから今も条件反射のごとくほめなければと思って、慶子の料理をほめた。でも、ほめなければと今までは思ったが、本当に美味しかったから、また、食べたくて口から出た言葉だ。昨日は、世間体もあるので、部下と一緒に会議室で二人だけの食事なんてできないよ、と言った。彼は、あんなに美味しい料理なら、世間体を気にしないでいいなら、彼女の作る料理を毎日でも食べたい、と心から思った。その瞬間、彼は大きく首を振った。いけない、妻帯者のおまえが何を考えている。身の程を知れ。分別をわきまえろ。もう一人の進一が脳内で絶叫していた。
昨日、昼休み、慶子と二人で手作り弁当を食べながら、ラブゲームの説明を少しだけ聞いた。二人で作るゲームという漠然とした説明だった。進一は、慶子がまだ若いのに料理が上手で驚いた。きっと花嫁修業をしてきたんだ、と思った。なにしろ、小山内グループの継承者だから。人事部長から口うるさく言われていた。寄付金をいただいているからな、という念押しだった。進一は、今頃、こんな娘がうちにいたらこんな感じの話をしたのだろう、と思った。ヒトメボレで相思相愛の関係になった、と慶子は言う。もともと、進一はヒトメボレを使わずとも、慶子が愛らしく、好きなタイプだった。本当に娘でもいい、と思ったほどだ。