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トライアングルパートナー

第13章 小山内慶子の攻略

 両親は小山内家伝来の味覚を共有する社交術を教えてくれた。未成年でありながら、高校生のうちからアルコールの含んだワイン、ウイスキー、世界の名だたるドリンクも、なめる程度ではあったが、舌に味覚を覚えさせた。アルコールは少量だったが、たくさんの種類を味わった。厳格だった父母は料理と合わせて飲む酒の影響もあり、食事中は朗らかだった。慶子はいつも両親の笑顔を見るたびに、一日中、食べていてくれたらと思ったほどだ。そういう慶子も食べているときは笑顔でいっぱいになって、周囲の人がそれを見て笑顔にしていたことを知らない。両親は、慶子の笑顔を見たくて、食事に慶子を連れて出掛けたのが真相だ。慶子は両親の愛で満たされた女性だった。
 昨日の昼休み、慶子にとって、食事以外は、口うるさいと思っていた両親の教えが、一つ、花を咲かせた瞬間だ。進一の食べたときの顔を見れば料理の味を聞かなくても分かった。風采の上がらないフツメンの中年男に、満面の笑顔があふれでて、慶子の脳にイン・プリントされた。
「うれしいぃー」
 慶子は進一と二人きりの会議室の中で、声に出さない叫びをあげた。奥さまの愛した理由が分かったわ。「この方のお顔を見たいからかも」進一の喜びの笑顔は、それぞれ、違ったが。純子は夜の行為で。慶子は料理だった。
 慶子は両親の教えに感謝しながら、かつてないほど、懇親の愛情を注いで作った弁当を食べてもらった進一の顔を「また、見たいな」と思いながら見つめていた。
 慶子は、昨日のことを思い出しながら、進一の返事を待った。
「…… いや、小山内さんのお弁当、お世辞は抜きにして、とても美味しいよね? お弁当屋さんを開けるくらいのおいしさだよ。そうだね、妻にも食べてもらいたい。でも、期待しないでね、彼女は僕と違って超絶キャリアスーパーウーマンって、庁内で言われている人だから昼飯はいつも食べていないかも……」

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