ナカまで愛でてトロトロに溶かして
第7章 【譲れないもの】
え……?本当に……?
イライラするくらい絡んできて私をキレさせるんじゃないの……?
力尽くで奪ってよ。
こっちの感情お構いなしに挿れて腰振るんじゃなかったの……?
静かな部屋にドアの閉まる音だけが聴こえた。
こんな夜遅くに私の一言で振り回されてのこのこと来たくせに。
ねぇ、冗談でしょ?
キモいよ、何でスッと帰るの?
いつもウザいくらい近くに居るじゃん。
ちょっとキツく言ったって笑って返してくれるのに。
いつもなら私が帰れって言うまで居座るじゃん。
椅子に掛けてたパーカーを掴んで飛び出した。
車だよね?地下の駐車場?
あ、携帯持ってくれば良かった。
でも時間ない。
エレベーター押して下まで降りる。
広い駐車場を走り抜けて白のセダンを探す。
こんなに走ったの久しぶり。
こんなに焦ってる自分も。
何処に停めたのよ。
もう出ちゃったの?
間に合わなった?
すれ違いばっかじゃん。
あの頃から何も成長してないの?私たち。
「章介ー!章介ー!」
どんなに格好悪くても精一杯叫んだ。
今の私、ヤバい女だ。
下着同然の姿にパーカー羽織っただけで叫んでるなんて頭イカれてる。
バタン!と車から降りる音がして振り返ったら、豆鉄砲食らったような顔した章介が姿を見せてくれた。
「え、悠?どうした?何かあったのか?」
立ち竦んで動けずに見つかった嬉しさでまた泣きじゃくる。
駆け寄ってきてくれた章介は私にずっと優しい言葉をかけてきて心を擽る。
違うよ、そんな風に心配ばかりしないで。
「びっくりした、変なやつが現れたのかと思って血の気引いたろ、マジで此処のセキュリティー会社文句言ってやるって思った…っ」
口の止まらない章介にギュッと抱きついた。
良かった………間に合って。
章介の匂いだ。
髪を撫でて「どうした?」って、今の今まで私に酷い仕打ちされたくせに優しくしてくれるんだね。
素直になるのは恥ずかしくて難しい。
大人になればなるほどなり方を忘れる。
ここまで追いかけるのも初めてだから察してよって思うけど、章介の言う素直ってそうじゃないんでしょ?
「………帰らないで」
「え…?」
「帰らないでよ、章介」