ナカまで愛でてトロトロに溶かして
第3章 【秘密の伏線】
後で何か言われそうだけど私にも拒否権はある。
いつまでも鍵山さんの思い通りになるとは思われたくないし。
かといってあのまま強引に来られたらきっと私は…………ゲスだ。
「お、おい……」って声めっちゃ怒ってたもん。
蓮くんも居る手前、帰らなきゃだよね。
それ以来、鍵山さんも忙しくなったみたいで来ない日が続いた。
そして私も連載プラス読み切りも抱えて同時進行するハメに。
千景ちゃんにも蓮くんにもちょっと残業をお願いしたりする日々。
顔だけ合わせて作業に没頭してる。
一言二言しか会話を交わさない日もあった。
この繁忙期さえ乗り切れば……と思ってたの。
少し待たせ過ぎたのかも知れない。
その辺の感覚はやっぱりジェネレーションギャップが発生するのかな。
蓮くんとあの日の未遂を引きずったまま約1ヶ月が経とうとしていた。
読み切りも締め切りギリギリだった為に久しぶりに貫徹した翌日。
アシスタントも休みにして一日中爆睡していた。
鍵山さんのメッセージも章介の着信も全部シャットダウンして抜け殻と化していたの。
夕方になってやっと目が覚めてシャワーを浴び、何も食べる気が起きないから好きな銘柄のウィスキーを開けてグラスロックで喉を潤す。
オフホワイトのワンピースシャツ一枚だけ羽織って洗いざらいの髪を乾かす。
ソファーに座りグラス片手に液タブをいじってしまうのはもはや職業病だ。
描いてないと落ち着かない…みたい。
ようやく訪れた静寂…とでも言おうか。
インターホンが鳴るのは珍しい事ではないが来た人物が珍しかった。
キャップを深く被った蓮くん。
恥ずかしそうに立ってる。
あれ、スペアキー持ってるはず…だけど、きっと休みの日だからシフト以外はこうしてちゃんとインターホン押してくれる。
プライベートまでは踏み込まない暗黙のルールだ。
「どうしたの?珍しいね、休みの日に」
「お疲れ様です、今日ちゃんと眠れましたか?」
「うん……お陰様で」
「あの、明日でも良かったんですけど…僕、手帳忘れてしまって……茶色の」
「あぁ……開けるね?」