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🌹密会🌹

第12章 🌹March🌹(終章)-3





「すまない、その...お前が病人だということを途中から失念していた。無理はさせたくない。ベッドに腰をかけてくれ。」



離れていった日比谷教頭の唇を名残惜しいと思っていた矢先、彼の優しさを感じて美月は胸が熱くなる。

ホッとしたのか、一気に身体の力が抜けたような気がした美月は少し覚束ない足取りでベッドに向かうと、腰を下ろす。


「美月、それは隣に置いておきなさい。」


隣にベッドに腰かけた彼は、未だにリングケースを掴んだまま離さない美月にそう呼びかけた。


「大丈夫です。持っていたいので。」



そうにこやかに笑って美月は答える。
そんな彼女の手の甲を撫でる様に、日比谷教頭は触れる。



「お前の手が疲れるだろう。その指輪はお前のモノだ。安心していい。」


穏やかかつ優しい口調で彼はそう言うと、美月から手を退けた。
込み上げてくる涙を抑える為に唇を噛み、微笑を浮かべた美月は、リングケースから手を離し、膝の上から移動させて静かに置く。


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