テキストサイズ

副業は魔法少女ッ!

第4章 想いの迷い子



 見たところ二十歳前後の女達は、他府県からの旅客らしい。キャリーケースを脇に置いて、なごやかに食事を進める彼女らの話題の中心は、かの滅亡した島国にまつわる都市伝説だ。

 ルシナメローゼは実在しなかった。厳密に言えば、それは仮想の世界に現存していたという内容だ。

 遥か昔、猿人が人間に進化した頃、自然の力は今より雄大だった。宗教や魔術がまだ人々の中心にあって、彼らの祈りは、現代からすればあり得ないほどの威力を発した。だが、いつの時代もどこの国でも、苦しみや欲は人々の心をかき乱す。現実世界が思い通りにならなければならない分、彼らの祈りはいっそう熱心になり、その情念が、ルシナメローゼという架空を映した。
 ルシナメローゼは、初め、現代で言うところのオンライン上の世界と同程度の存在感だった。人々の作り出したものであり、人々の支配が及んだ。あと特徴的なのが、架空に誕生した島国は、現実世界が荒むほど、平安に満たされていたところである。反対に、ルシナメローゼが荒んだ時期は、現実世界に平和な時代が訪れていた。


 女達の内の一人が、非科学的な分野を研究しているブログサイトを開いていた。彼女のスマートフォンを覗き込んで、他三人が、携帯小説ではないのかだの、証拠はあるのかだの、好き好きに感想を述べている。

 椿紗は、あれだけ鼻腔を魅了されたトーストを完食しても、食糧が胃を満たした感覚をほぼ得られなかった。出かける前は期待に胸弾んでさえいたカフェラテも、いつの間にか人肌より冷めている。


 結局、少しいつもとは違う気分の朝を過ごしただけ。都市伝説に気を取られるくらいなら、初めからアイスを頼んでおくべきだった。

 そのことを、椿紗は帰宅するなり、実体を持たない親友を庭の花壇に呼び出してぼやいた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ