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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ

屋敷を目の前にポツンと立ち尽くした。
これが市川ルイの事務所?屋敷を囲う鉄の柵は所々錆びていて、吹かれる風で揺れる門はギィギィと軋む様な音を立てている。また屋敷の外壁は茨のような棘が生えている。
 
これはまるで、心霊スポットにある廃墟だ。
私が想像していた事務所とは大いに違う。
 
やはりいたずらだったのか?
あまりにも呆気をとられてしまい、肩にかけていたビジネスバッグもずるりと落ちた。

本当にここなのか?
もう一度地図を確認する。
何度見てもここだった。地図の片隅には階段を登ったその先と書いている。

これはどうすればいいのだろうか。
廃墟のような建物を前に私は考え込む。
よく見ると窓の方には誰かの顔がちらついているような気がした。

まさか、誰かいる?
メールの送り主だろうか、それとも市川ルイ?

しかし、おかしなことにも気づいた。
全部の窓から人の手や顔が見えるのだ。

窓の汚れな気もしたが、左右にゆらゆら揺れていた。

あぁ、これはマジのやつだ。
絶対やばいとこだ。直感で感じた。

しかし、ここまで来てしまったら行くしかない。
私は肝試しに来てると思って、足を進ませて、静かに冷たい門を開けた。

そして敷地の中に入った瞬間、寒気が止まらなくなった。
寒い、体が震える。
そして猛烈に頭が痛くなった。
ここはやばい、やばいとこだ。どこからか悲鳴の様な声も聞こえる。

私は咄嗟に耳を塞いで震える足を止めた。
これは引き返すべきではないのか。これは完全にアウトな出るとこだ。

ここでなにがあったかは分からない。元々、心霊スポットや肝試しは全く興味がなかった。自分の体質的にも行ってはいけない所だ。

やっぱり引き返そう、これでは面接どころか辿り着く前にどうにかなりそうだ。
そう思って身を引こうとした瞬間、屋敷の中が足音で響いた。
これは人の足音だ。見える人なら大体分かる。中に誰かがいる。

「もしかして、市川先生?」

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