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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ

駅から少し歩いて、ついに入口を見つけた。
そこはけもの道とまではいかないが、看板すら立ってない茶色い土が敷かれた道だった。
ここまでの道のりで分かったが、どうやらこの先は森になっているらしい。

母の言葉をふいに思い出した。
やはりこれは少し怪しいのではないか?
この先に事務所があるとはとても考えられない。

もしかしたら、あのメールは市川ルイの名前を使った詐欺で、この先を進んだら小さな山小屋があり、そこで不審な人物から暴行を受けてしまうのでは?
そして、そのまま山奥に捨てられるのではないか。

不穏な空気になりつつあった。
まさかそんな。私は騙されたのか。
私はその場で立ちすくんでいたが、母がなんやかんや就職を楽しみにしてくれていたことや、愛情の籠ったお弁当を私に渡してくれたことなどが頭に過ぎった。

母はきっと大丈夫と思っているはず。
最後まで心配はしていたが、娘の私を信じて送り届けたはずだ。

私はここで立ち止まる訳にはいかない。
なによりこの先に何が待ってるにしても、市川ルイに繋がれたと思ったあの瞬間の喜びを今でも覚えているのだ。

「行くしかない」

よしっと私は肩を上げて、前へ進んだ。


町から外れた山道は木で囲まて涼しかった。
木々の隙間から太陽が差し込み、思っていたよりも明るかった。
鳥もいた、ちゅんちゅんと鳴いている。
木々が揺らめく爽やかな音と、鳥の鳴き声が自然を感じさせる。

ここの森も町の長閑さを感じられる。
初めて訪れた土地だったが、いい場所だ。

木々のさえずりを聞いていると、先程までの不穏な空気もなくなっていた。

進む先を見ると徐々に坂になっていた。
山道らしい山道だ。
私は慣れないパンプスで更に奥へ進む。
疲れる程の坂では無い。心拍数は上がるが汗をかく程ではなかった。

坂道を登ると、その先は石畳の階段があった。
周りを見渡しながらコツコツと上る。
あと少しだ。地図を確認しているとふいに強い風が吹いた。
木々が揺れ、緑の葉が目の前で風に流されていく。

緑の葉の間から、その建物は見えた。

「着いた…?」

しかし、目に入った建物は大きな屋敷だった。

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