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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ

__数日後。

遂にやってきた面接当日。
母はこの日のために休みを取ってくれた。
最後まで怪しいわっとまるで口癖のように吐いていた言葉も、私が打ち消すように興奮している様を見て、徐々に口数を減らした。

「加奈子、シャツアイロンした?」

「ハンカチは持った?念の為送られてきた書類も持っていきなさい。後は大事な地図もよ」

「分かってる、分かってるって」

部屋の前で母はあれこれ私に指示する。
母もなんやかんや娘の就職に喜んでいるのだろう。

電車に乗って、一時間程で目的のS市に着く。
それから地図では山道があり、その先にある大きな家がある。
念の為、スマホでも地図を確認した。
ストリートビューでも見てみたが、流石に山道の先までは見れなかった。

「山奥に事務所でもあるのかしら…加奈子気をつけなさいね」

そう言って母は私に丁寧に包まれたお弁当を渡した。
私が幼い頃から使っている花柄の包みがとても懐かしい。

「えぇ、いいのに。終わったらすぐ帰ってくるよ」

「どれくらい時間かかるか分からないでしょ?それに早く終わったらお家で食べればいいのよ」

それもそうか。
私は母の愛情がこもったお弁当を受け取り、傾かないように鞄の奥にしまった。

「ありがとう、お母さん」

そう言って私は微笑んだ。
母も私の微笑みを見て大きく口角を上げ目尻に笑いジワを寄せる。

「いいのよ!さぁ、もう時間でしょ?電車遅れるわよ」

時計を見てあっ!と声を出す。もう行かなきゃいけない。

「じゃあお母さん!行ってきます!」

母のお下がりのパンプスを履いて、コツコツ音を立てる。
軽い足取りで私は駅に向かうのだった。

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