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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ

電車を降りてS市に到着した。
一時間ほど揺られた電車は長いような短いような時間だった。

いざ向かうとなると足が震える。
見慣れない土地を見渡して大きく深呼吸した。

「大丈夫…落ち着いて」

ふぅーと胸を撫で下ろして黒いビジネスバッグから一枚の地図を出した。
ご丁寧に面接を行う事務所らしき所までの道は赤くマークされていた。
私は周りを見渡して、山道の入口を探す。

ここS市は私の住んでる所のすぐ隣にあった。
ただ町は田舎じみた所で、電車の中で見えた光景は田んぼや畑、ビニールハウスや小さな建物ばかりだった。

私の住んでる町と比べたらかなり長閑な所だ。
麦わら帽子を被った子どもたちが元気に走っていく姿を見て穏やかな気持ちになる。

しかし、そんなことよりも私は自分の住んでる町から市川ルイの事務所が近かった現実にかなり驚いた。
確かにうちの町はそれなりに栄えている。
都内からも近い方だし、高い建物もそれなりにある。

けれど、まさかすぐ隣にあったとは。
一時間の距離で事務所から最寄りの駅に着くのにも驚いた。

けれど今は事務所から家までの距離に驚いている場合では無い。

今から面接をする。
それまでの道のりは様々なことを考えた。

もし明日明後日から早速アシスタントを任されたらどうしよう。
それとも、これが最終面接のようなもので落とされるのかもしれない。
いざアシスタント希望の人が来ても、貴方には任せれないと判断したらそれでお終いだ。

急に不安になった。
合格の茶封筒が届いたその日から私は謎の自信に溢れていたのに、不安というのは唐突に来るものだ。

「やばい…吐きそう」

緊張しすぎてお腹が痛む。
入口を探す足取りが徐々に重くなる。
面接時間まで残り20分。そろそろ見つけなくては。

この調子だと母から貰ったお弁当は食べそうにないなっと考えながら前に進んだ。

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