
ほしとたいようの診察室
第2章 遠い記憶と健康診断
「1度でも逃げようという挙動が見えたからには、信用なりませんなぁ。まぁ。無事に捕まえたし、採血に行こうねぇ〜」
「なっ……!」
無事に『捕まえた』……?
その言い回しが気になって、首を傾げると蒼音くんがにっこり笑ってあけすけもなく種明かしを始めた。
「ん? 気になる? さっき吹田先生からここに連絡あったんだよ。のんちゃん、採血受けずに逃げそうってね」
蒼音くんが胸から下げたPHSを振る。
PHSは院内だけで使える社用携帯みたいなもので、先生や看護師の間で連絡をとる時に使われる。
わざわざその電波を使うとは……。
吹田先生……!
抜かりない吹田先生の根回しも、昔から変わらず。
「安心しな、のんちゃん! ちっくんのプロが待ってるからね!」
「ち、ちっくんって……! もうそんな子どもじゃないよ……!」
「ふーん、じゃあどうして逃げたのかな?」
言い返せずに押し黙ると、『採血→』に向かって蒼音くんに手を引かれる。
「離してよーう、大丈夫だから」
「だーめ、ほら行くよ。さっさと終わらせよ!」
それにしても、ちっくんのプロって、もしかして……?
