
ほしとたいようの診察室
第2章 遠い記憶と健康診断
そうしている間に、蒼音くんに背中を押されて、椅子に座る。
「ちょっとごめん」
自然な動きで左腕の袖を捲られて、腕が露出した。
アルコールの消毒が、肘の内側にすーっと滑る。
あぁー……なんかやだ、この感じ。久しぶりだ……。
生唾を飲み込む。体が勝手に震えてきそうだった。
「気分悪くなったりしないかな? ベッドで横になって採血することもできるけど」
話しながら、叶恵さんは準備を進めていた。
腕にゴムバンドを巻かれると、後ろにはそっと蒼音くんが立っていた。
「……だ、大丈夫です」
もう逃げられない。
「すぐ終わらせるわよ」
採血くらい、平気だ。
そう思い込もうとしていた。
腕に針が向けられる。刺さる瞬間は怖くて目を逸らした。時間にしたら一瞬なのに、すごく長く感じた。
あれ…………???
「はい、もうすぐーーーーー」
痛みとともに、体の力が抜けていく。
水の中に入ったみたいに、叶恵さんと蒼音くんの声が聞こえなくなった。
「……のんちゃん、しっかりーーーーー」
やばい、どうしよう。
どれだけ頑張っても、体に力が入らなかった。
ふわっと、後ろに重心がズレる。
倒れ込む前に、蒼音くんの腕にわたしの両肩が収まった。
……採血中に、意識を失った。
