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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 203 ワンコール

「それは、そうだろう…」
 私は思わず苦笑する。

 自分が彼の立場でも同じで、愛しい彼女が元カレと一緒に会ってるって訊いてしまったならば、居ても立ってもいられなくなるのは必至である…

「うん、わかった、帰るよ」
 私はできるだけ穏やかにそう言った。

「あ、ホントごめんなさい、本当は今夜はずっと…
 もっと一緒に…」
 と、必死に言ってくる。

「あ、いや、本当に気にしなくて大丈夫だから…
 それにさ、明日は朝から10回忌の法事だからさ、そろそろって考えていたしさぁ…」
 務めて明るくそう言った。

 なるべくなら、こんなやり取りで遺恨は残したくはなかったし、今夜のこの逢瀬をお互いに大切な、そして良い思い出の夜として記憶に残したかったから…

「うん、ありがとう…」
 やはりノンも聡明な女性なのだ、そんな私の想いを理解したかの様な感じが伝わってきた。

「いや、オレの方こそ…」

 嬉しかった…
 と、目で伝える。

「うん、わたしも…」
 ノンもそう返してくれた。

「あっそうだ、ごめん忘れた、こうちゃんの電話も鳴ったわよ…
 ただし…
 ワンコールだけどね…」

 ワンコールだけどね…
 と、今度は悪戯っ子のような目になって言ってきたのだ。

 ワンコール…

 ゆかりか…

 きよっぺか…

 律子とは夕方話したし…
 また、再びザワザワと騒ついてくる。
 そして着替えに寝室に戻って携帯電話を確認する。

 あっ、きよっぺだ…

 きよっぺからだ…

 心のザワザワが激しくなってきた。

「彼女から?…」
 するとノンは、そんな私の気配を感じたのであろう、そう訊いてくる。

「あ、いや…」

「ぷっ、やっぱりこうちゃんは変わってないわね」
 そう笑いながら呟く。

「え…」

「ほら、やっぱり、ウソが、昔から嘘が下手だもの…」
 そう言いながら私にスッと身を寄せてきた。

「また…
 また、会って、逢ってくれるよね…」
 そう囁きながら、私の顔を見つめ、目を閉じて、唇を寄せてくる。

「あ、うん、もちろんさ…」
 そう私は応え、ノンの唇を受ける。
 その想いは本当の、本音であった。

 また、逢いたい…

 また、抱きたい…

 また、愛したい…

 この『希望ののぞみ』を…

 いつも『明るいのぞみ』を…

 また…





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