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シャイニーストッキング

第10章 絡まるストッキング9      美冴とゆかり

 236 稲葉ディレクター再び…

「ようやく出てくれたね、お嬢さん…」

「あぁ…、どちらさまでしょう?」

 わてしは誤魔化す意味もあり、改まった声で、そう他人行儀に応える…

「え…あ…、俺だよ、ディレクターの稲葉だよ…」
 すると、ヤツは慌てた声でそう言ってきた。

「あぁ、存じております…
 この前は、お世話になりました…」

 わたしは美冴さんに会話が聞こえてしまう事を意識して、完全に営業先の相手のフリの対応をする…

「お、おい…お嬢さん…」

「はい、生憎、今、お盆休み中なので、その件は連休明けにお願いしたいのですが…」
 これで稲葉ディレクターは、ようやく気付いた様であった。

「あ、じゃ、また後で掛け直すよぉ…
 お嬢さん、またねぇ…」
 と、全く懲りない感じでそう応えてきたのだ。

「はい、じゃあ、すいません、よろしくお願いします…
 失礼します…」
 そしてわたしは一方的に電話を切った。

 やはり…
 『黒歴史』の存在からの着信であったのだ…

 そして…

 残念だが、彼、大原浩一本部長からではなかった…


「もう…営業先の担当からだったわ…」
 わたしはそうウソを言いながら美冴さんの元へ戻る…
 と、美冴さんも携帯電話を操作していた。

「え、そうなんですか、でも連休中なのに、緊急の用件じゃなかったんですか?」

「あ、うん…
 相手はテレビ局だから、あまりこういった大型連休とかに無頓着みたいでさぁ…」
 わたしはそう誤魔化したのだ。

「テレビ局だったら、そうかもですね」

「うん、それより…」
 とりあえずなんとか美冴さんには誤魔化せた様で、話題を代える意味で美冴さんの手にある携帯電話を見つめながら訊いてみる。

「あ…、これ、健太くんにメール…」
 と、微笑みながら言ってきた…
 のだが、わたしはその微笑みの美しさに思わずドキンと心が震えてしまう。

 その微笑みは…
 穏やかで、本当に美しい笑みに見えたのだ。

 な、なんて綺麗なんだろう…

 そう、まるで『女神』の微笑みだわ…

 あの微笑みだけで癒される…

 そんな微笑みに感じた。

「昨夜、着信とメールが着ていたんで、さすがに返事しないと…って…
 メールしたんですよ…」

 『女神の微笑み』を浮かべながら、そう教えてくれた。

「そうかぁ…、え、でも?…」



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