テキストサイズ

シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 1 1997年8月18日午前6時05分

 ブー、ブー、ブー、ブー…

「…ん………あ…」
 枕元の電話が鳴った。

「はい、山崎専務お早うございます」

「おう、朝から悪いな」
 全く悪いとは思ってもいない口調てあった。

「いえ大丈夫です、起きてましたから」

 意識は五分程前に覚醒していた…
 それは、なんとなく朝イチで電話が掛かってくるような気が、いや、確信していたから。

「そうか、実は…」

 朝イチで○△生命本社会議室に直行して、臨時役員会を行う…

「え、あ、はい…」

「いや、明日の朝イチで真中常務が
『特別背任罪』で告発逮捕される事が決まって…
 今日の朝イチの臨時役員会で逮捕前に解任して、代わりにキミを常務にする事に決まってな…」
 
「えっ、わ、私がじ、常務にっ?」

「あ、うん、それでもう既に役員連中には根回しは済んでいるから、本当にカタチだけの臨時役員会になるんだかな」

「あ、は、はい…
 わかりました…朝イチで向かいます」

「うん、おめでとう…」

「は、はい、ありがとうございます…」

「じゃ、よろしくな」

「はい、失礼します…」
 そして電話を切る。

「え?…
 じ、常務って?…」

 すると…
 隣で寝ていたゆかりが、この会話をすっかり聞いていて驚きの声を上げてきた。

 実は…
 ゆかりは昨日、一度自宅に帰宅をし、今朝一緒に出勤しようと準備を整えて戻り、また一夜を共にしていたのである。

 そして、隣にいたから、携帯電話の会話が筒抜けであったのだ…

「うん、前任の真中常務がかなり使い込みをしていたから、明日、特別背任罪で告発逮捕されるからさ…」

 そう、先手を打って、私が常務に就任する…

「う、うわぁ、すごいじゃない、うわぁ、おめでとう…」

「あ、うん、いや、でも所詮は松本副社長と山崎専務の派閥の傀儡役員なんだがね」

 そう、私はまだ…

 操り人形の役員なのだ…

「え、でも、今は…でしょう?」
 と、ゆかりも目を光らせて呟いてきた。

 そうなのだ…

 まだ、今は…

 傀儡なのだが…

「でも、役員は役員だし、常務は常務だし、とりあえずおめでとう」

 すごいわぁ…
 と、ゆかりはそう言いながら私に抱き付きキスをしてくる。

 そう…

 今は…だ。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ