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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 3 出勤…

 私とゆかりは一緒に自宅マンションを出て、別々のタクシーで出勤する事にする。

「ここからなら西新宿は近いから電車で行こうかな?」
 そうゆかりが言ってきたのだが…

「いや、この近辺の電車のラッシュは最悪だから…」
 そう言ってタクシーを拾い、乗せた。

「じゃ、大原常務さん、お先に…」
 するとゆかりはそんな戯けた言葉を言い…

「いちおう、夜に電話しますね」
 そう言って、先に出る。

 このいちおう…

 つまり、今日が思いがけなく、突然の常務就任となる訳だから…
 夜は色々と忙しくなるだろう。

 そんな、ゆかりなりの気遣いからの言葉であろうと思われた…

「あ、うん、あまり揶揄うなよ…」
 私はそう言って彼女を先に送り出す。

「あ、運転手さん、有楽町エリアまで…」
 そう告げて後部座席に座る。

「ふうぅぅ…」
 そして、思わず、そんな吐息、いや、ため息を漏らしてしまう。

 確かに、一昨日の夕方に山崎専務からは、常務就任の打診の話しは聞いたのだが…
 まさかこんな急になるとは、まだ少し先だと思っていたのだが。

 前任の真中常務の急な逮捕等の影響だろうが…

「いや、しかし…」
 本当に自分自身が一番に驚き、そして…
 昂ってもいたのだ。

 まさか…

 本社ではないとしても常務に、いや、そもそもが役員に出世するなんて…

 ゆかりどころではない…
 一気に同期全てをゴボウ抜きである。

 嬉しいのが本音であるが…

 反面…

 これで嫉妬…

 ひがみ…

 等々も含めての敵も倍増する筈だ…

 そしてバックには松本副社長という強大な派閥が控えているのも、周りには完全に周知してしまうことになる。

 前途洋々…では無く

 かなりの荒波がウネっているような感じがする。

 やはり、尖って…

 尖って生きていかなくては…

 足元をアッサリと掬われてしまうかもだ…

 タクシーがスムーズに朝の首都高速道路を走って行く。




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