テキストサイズ

シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 10 大原浩一新常務の存在感

 あの人、彼、大原浩一新常務が部屋に入って来て…
「あっ、えっ、な、なんだ?」
 わたしの姿を見て認識した途端に、面白いように慌て、狼狽え、そんな驚きの声を漏らしてきたのだ。

「初めまして秘書課課長の田中です」 
 すると田中課長はそんなあの人の動揺には気付かずに、そうすまし顔で挨拶をし…

「そして本日より、彼女が常務室選任秘書となります…」
 そう続けてわたしを紹介した。

「松下律子と申します、よろしくお願いします」
 わたし自身も本当は、内心、すごくドキドキと心を高鳴り、昂ぶらせていたのだが、田中課長に変な勘繰りを与えたくは無かったので、務めて、いや、必死に、冷静を装ってそう挨拶をしたのだ。

 そもそもが秘書課の田中沙織課長は、どうやら自分自身があの人の、いや、大原浩一新常務の専属秘書を狙っていたフシがあった。

 それも当然で山崎専務のおじさまからや、他の秘書の方々、そして本人である秘書課長からも、前真中常務の悪口と、悪評は、驚く程に耳に入ってきたし、ましてや吸収合併した際の大原新常務による各課社員全員からの聞き取り調査や、どうやら新役員に就任するらしい噂、そして元々がこの保険会社全体の社風というか流れが完全なる『男尊女卑』であって、かなり優秀な女子社員達を蔑ろに差別していたから…

 あとは『新プロジェクト』に異動してしまったが優秀な『越前屋さん』という総合職なのに虐げられていた女子社員を取り上げていた扱いを見て…

 大原新常務は社内全体の女子社員達の救世主的な輝く希望的として、社内全体の女子社員達に認められていたのだ。

 だから当然…
 田中課長自らが専属秘書になるつもり満々でいた。

 だが、本社となった山崎専務からの急な要請で、わたし『松下律子』という存在が…
 つまり本社派遣というカタチで専属秘書になる等の辞令を受けて派遣されてきた経緯であったから、田中課長にとっては正に『寝耳に水』的な存在となってしまったのである。

 因みにわたしは本社である
『○○商事株式会社』
 で、秘書課の正社員であるというニセの履歴を山崎専務から急遽与えられていた。

 そしてわたしの秘書就任は、今日、この瞬間まで彼には内密にしてあったから…

「松下律子と申します、よろしくお願いします」

「あ…う、うん…」




ストーリーメニュー

TOPTOPへ