テキストサイズ

シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 9 見据えている高さの差

「え…と、実は、もうお盆休みの前から決まっていたんですの」
 
「え、そ、そうなのか?」

「はい…」
 律子はにこやかに頷く。

「そ、そうなんだ…
 お盆休み前からか…」

 だから本社の総務に行った時に、秘書の話しを尋ねられたのか?…

「そうなんです、おじさまからは秘密にしておけって…」

 そんな前から、私の常務就任の話しも決まっていたのか…

 だが、冷静に考えれば…

 その位前から、いや、もっと前から…

 あの吸収合併M&Aが決まった時から、そんな私の傀儡役員は決まっていたんじゃないのか?…

 いや、間違いないだろう…

 前常務の告白解任逮捕にしても…

 株式譲渡にしても…

 その位前から準備していなくちゃ、こんなにスムーズに行く訳がないんだ…

 私が浅はか過ぎるんだ…

 とにかく、今夜…

 山崎専務に直接、全てのカラクリを訊かなくては…

 またその反面、山崎専務の…
 いや、松本副社長との二人の怖さも改めて実感していた。


 そして…

 あの二人の見据えている高さは、根本的に、私の想像の遥か彼方の高さを見据えているんだろう…とも。

「じゃあ、あの遊園地のプールに来た時には既に…あ、いや、当然か…
 だから、あの日光観光の帰りの電車内で…
『どうせまた、すぐに逢えますから…』
 と、云っていたのか…」

「あ、はい…」 
 律子はまたにこやかに微笑む。

 そうか、知らなかったのは私だけか…


 ブー、ブー、ブー、ブー…

 すると、常務室の電話が着信する。

「はい、こちら大原常務室です…
 あ、おじさま…」
 どうやら、早速の、山崎専務からの電話であった。

「はい、大原です」

『お、どうだ、少し落ち着いたか?』

「はい、ちょうどナイスタイミングです」

『いや、黙っていてすまなかったな…
 でも、前もって云ったらキミは反対するかもって…』

「あ、ま、はい」

 そうかもしれない…

『今夜じっくり説明するから…
 二人で一緒に来いよ、まずはメシでも食おう…』

「は、はい、わかりました…」

『ま、キミには損な話しには決してならないから…』

「はぁ…」
 と、山崎専務はなんとなく不思議なニュアンスを残して電話を切った。

 損な話しにはならないって?…

 損て?…




ストーリーメニュー

TOPTOPへ