テキストサイズ

シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 22 電話…

「外線で掛けましょうか?」
 と、訊いてきた。

 ああ、この場面でも、彼女には…
 いや、秘書としての律子にはお見通しなのかもしれないな…
 と、私は咄嗟にそう思う。

 やっぱり今までみたいに、全てを見抜かれてしまうのかもしれないなぁ…


「あ、う、うん、頼む」

「はい、かしこまりました」

 そして律子は一通りのカラクリの説明を終えた途端に…
 完全に秘書としての立場と存在に切り替わり、全く公私混同の顔ひとつ見せては来ないのだ。

 だから、目の前にいる松下律子は…
 私の愛人的な立場である彼女、いや、松下律子では無く、完全無欠の常務選任秘書の松下律子となっていたのである。

 それはそれで本当に素晴らしい事であった…

「こちはら○△生命の大原常務秘書の松下と申します、え、佐々木室長を…」
 やはり、ちゃんと分かっていたのだ。
 
 そして、少し待って…

「常務、お出になりました…」
 と、冷静に私に代わる。

 果たして、律子は…
 わたしとゆかりとの関係は重々承知しており、そして、あの夜、深夜、共にベッドにいたあの夜のゆかりからの電話を防いできた筈の律子ではなかったのだ。

『もしもし佐々木です』

「あ、う、すまないな忙しい時に…」
 私はそんな律子の様子に少しだけ動揺してしまっていたのだが…
 受話器の向こうから毅然としたゆかりの声に、落ち着きを戻した。

 やはり、女の方が強いのだ…

『何か御用事で?』

「あ、うん、そうだ、越前屋くんを貸して欲しいんだが…」

『え、越前屋さんを?…』
 そしてゆかりは少し沈黙し…

『あ、はい、なるほど、いつまでですか?』

 実は、越前屋くんによって直接もう一度、この生保内の人間関係とパワーバランスを確認し、色々と参考にしたかったのだ…


「……」
 わたしは、やはり、勘のよい、いや、瞬時にこっちの思惑を察知する優秀なゆかりに、一瞬、沈黙してしまう…

「あ、うん、午後から明日一日いっぱいまでかな…」

『はい、うーん、大丈夫です、じゃあ、さっそく午後イチで行かせますね』

「あぁ、よろしく頼むよ」

 そして電話を切ろうとした時であった…




ストーリーメニュー

TOPTOPへ