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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 161 香水…

「うんとりあえずもうすぐ新宿だから、コールセンター部に寄って行く事にするよ」
 彼、大原常務は少したどたどしい感じでそう言って電話を切った。

「はい、わかりました、失礼します」
 まだ常務室には誰もいないのだが、わたしは敢えて業務的に敬語を使い、そして電話を切る。

 この会社内では、いや、例え常務室で二人切りでも敬語を使うと決めていた…
 
「うふ…」
 でも彼の慌て振り、そしてウソのヘタな事に思わず笑ってしまう。

 だけどそこが、いや、そこも彼の良い部分でもあり…
 わたしが惚れた要因の一つでもあるのだが。

「おはようございまぁす…」
 すると、今日も出向予定の越前屋朋美さんが出勤してきた…
 そのドアを開けて入って来た彼女の笑顔をになんとなくホッと心が緩む。

 なんて可愛い笑顔なのかしら…
 一気に張り詰めていた心の緊張感が解れていく感じがしてくる。

「ふぅぅ今朝もお姉さん、あ、いや、松下さんはいい香りがしますね」
 越前屋さんは鼻をヒクヒクさせながらそう言ってきた。

「え、いい香りって?」

「あ、お姉さんのその微かに感じる香水の香りですよぉ…
 実はぁ…」
 
 そして彼女は、昨夜、佐々木ゆかり準備室室長をはじめ、スタッフ数人と飲んで、わたしの話しを少ししたのだ…
 と、明るく話しをしてきたのだ。

「あら、楽しそうですね」

「あ、はい、楽しかったんですぅ…」
 そんな明るい笑顔で話してくる。

「………でぇ、お姉さん、あ、松下さんの雰囲気がぁ、わたしの友達のあっちん、あ、伊藤敦子に似てるってぇ…」
 彼女の話しが止まらない。

 だけど彼女のキャラなのだろうか、本当に嫌味が無く、明るく、楽しい気持ちにしてくれるのだ…

「へぇ、そうなんですかぁ?…」
 そしてどうやら、向こうでは、いや、多分、佐々木ゆかり準備室室長がわたしの事を気になってか…
 越前屋さんに、わたしの事を少し探りを入れているような感じが伝わってくる。

「…でぇ、その香水の話しになってぇ…
 でもぉわたし本当にぃ、香水とかには疎くてぇ…」

 その話しを聞いてわたしはピンときたのだ…

 やっぱり佐々木ゆかり準備室室長は、わたしのシャネルの香水の意図に気付いていたんだ…と。


 今までワザと彼、大原常務に、わたしの香水の残り香を付けていた事を…



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