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　65　モヤモヤとした感情

　とりあえずその電話による間違いのない事実は…
　今日の午後に彼、大原常務に会えるという事。

　そしてもうひとつ…
　わたしにとっての謎の存在である松下さんという秘書さんと、初めてのご対面をするであろう事である。

「ふぅぅ…」
　わたしは切れた携帯電話を握り締めながらそんな吐息、いや、ため息を漏らす。

　そして心がザワザワとした騒つきから緊張感へと変わり…
　ドキドキと高鳴り、昂ぶってきていた。

　ついにあの秘書さん、松下さんとついに会う、いや、彼女の顔が、姿が見れるんだ…

　それも彼と一緒の席で…

　果たしてわたしは冷静に、いつもの佐々木ゆかりとして対し、対面できるのだろうか？…
　心がドキドキと高鳴り、昂ぶり、揺らいでくる。
　
　そしてもうひとつ…
　モヤモヤとした感情か、想いなのか？
　複雑な感覚が心の奥深くに渦巻いてもきていた。

　なんだろうか、このモヤモヤとした感じは？…
　なんとなく以前にも感じた事があるような、無いような…
　わたしはそんな複雑な感情の感覚を自覚しながら、部長室の天井を見つめていた。

　ブー、ブー、ブー、ブー…
「はっ」
　すると、握り締めていた携帯電話がまた着信する。

　あ…
　それは営業の杉山くんからの着信であった。

「もしもしゆかり部長、松崎さんが来ましたっす」

「あ、うん、わかった、すぐ行くね」
　それはマニュアル作成の中心となっている派遣社員の到着の知らせの電話。

　そう…
　わたしは多忙なのだ。

　とりあえず今は切り替えをして、新たな業務のマニュアルを大至急作成しなければならないんだ…

　その電話の…
　いや、大原常務や秘書さんの保険業務はその後、午後からなのだから…
　まずは新規業務のマニュアル作成が第一優先なんだ…
　わたしはそう必死に気持ちを切り替え、心を奮い立たせ、部長室を出る。