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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 192 帰りのタクシー(4)

『もぉオトコって生き物はねぇ…』
 そんな美冴さんからの慈しみの言葉はもちろん優しさからでもあり、そしてまた、わたしと彼とのリアルな関係の終わりをも悟った意味でもあると伝わってくる。

 あぁ、そうよね、やっぱりわたしと彼は終わってしまったのかもしれないわ…
 ううん、完全に盗られ、獲られてしまっみたいだわ…

「ほ、本当よね…
 それに…あ、あの……には…」
 
 それに彼女、松下さんにはかなわない…
 そう、美冴さんにだけ聞こえる声音で返そうとしたのだが…
 どうやら感情の激しいウネリがこみ上げてしまってきて、コトバにならない。

 そしてそんなわたしの感情の昂ぶりに気付いたらしい美冴さんは、慌ててわたしの唇に人差し指をあてがってきて…
『いいのよ、それ以上は言わなくて…』
 そんな想いの慈しみの目を向け…
「………………」
 無言で首を横に振ってくる。

 あ...

 わたしはその時…
 そんな美冴さんの優しさと慈しみの想いを伝えられながらも、あることに気づいたのである。

 それは…

『悲しさ、哀しい…』
 そういう意味の感情が無い、いや、感じていないという事実である。

 失望感、絶望感等々は感じていても…
 なぜか、さほどの悲しさ、哀しいという感情の昂ぶりを感じてはない。

 たった今、美冴さんの優しさに触れ、一気に感情の昂ぶりが高まった筈なのに…
 無意識に、ヤバい、泣いちゃうかも…と一瞬、脳裏に浮かんだ筈なのに…
 涙は出なかった。

 いや、涙が込み上げてくる感覚さえもなかった…
 ただ、ただ、感情のウネリがこみ上げ、心を揺らがしただけであり、悲しいという感情を感じていないのだ。

 もちろん彼を、いや、本当に今の今も、彼を愛しているという想い、思い、自負がある…
 そして大切な存在であり、パートナーであり、愛しいという思いは変わらない。

 これからも、この先も、ずっとずっと一緒に居たいし、過ごし、歩んでいきたい…
 だが、なぜか、そんなに悲しく、哀しくはないのである。

 え、なぜ、なぜなのか?…

「はぁぁ…」
 
 すると、わたしがこんな、やや混乱気味な思考に戸惑い、心を揺らがしているこのタイミングの時に、突然、また再び、前の座席で越前屋さんがため息を漏らしてきたのである…




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